水底のキミ【奈良坂透】 (ページ16)

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虚実ページ16

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「‥‥‥どっち、と言うと」

「出水Aと、星宮A」

すとんと何かが自分の中で解(ほど)けた気がした。
それは、頭の片隅で引っかかっていた、不審感ともとれる違和。はたまた不自然さか。

横目で彼女を見れば、察しがいいね、と口元に緩く弧を描いた。

つまりはこういうことだ。
出水Aは、学校では星宮Aとして振る舞っている。

世間一般が求める「出水A」という人物像は「星宮A」だ。しかしそれは彼女本来の姿ではなく、作られたもの。いっそ完璧すぎるとも言えるような、純粋で誰もが親しみを持ち愛したくなる、皆の「出水A」は、イコール「星宮A」ではないのだ。

皆が知っている、あるいはそうであると思っている「出水A」は、「星宮A」の人物像に貼り付けられた建前だ。

校内で浮かべる彼女の笑顔にどことなく不自然さを感じていたのだが、それは勘違いではなかったようだ。一体この違和感を覚えている生徒は俺以外に何人いるだろうか。

「‥‥まぁ、言っちゃえば猫被ってたわけよ、私」

「‥‥なるほど。俺は、それが剥がれた瞬間を見てしまったわけか」

「そーいうこと。
───本来の私はあんなイイコじゃないよ。正直いっつも笑ってんの疲れるし細々とした気遣いすんのも面倒くさい」

人がいないとはいえぶっちゃけすぎじゃないか、と思いながら聞いていれば、「これ、絶対オフレコね」と、まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべた。これはどっちの彼女だ、と一瞬混乱したが、すぐに考えるだけ無意味であると結論づけた。

どちらにせよ、図らずも出水Aの「嘘」を知った人物となってしまったのだ。それを彼女は計算し尽くされた笑顔で俺に伝えている。お前も共犯者だ、と。