奇態 ページ15
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珍しく暇だった。
防衛任務もなく、狙撃手の合同訓練もない。放課後に何もやることがないというのは稀有なことだ。
そのまま帰宅して勉強しても良かったが、たまには家ではない場所でしてみようか、という気まぐれに従って教室を出た。
生徒はSHRが終わると同時に、部活や遊びのために早々にいなくなる者が大半だ。少数派だが教室で勉強する者もいる。そこに混ざろうという気分は無くて、
───その結果が、図書室である。高校の図書室なんて生徒がいることの方が少ない。
引き戸をスライドさせれば、暖房の風が紙のにおいを運んできた。このにおいは嫌いじゃない。不思議と落ち着くそれは、俺にとっては心地良い部類に入る。
ふと、室内に生徒がいることに気づいた。珍しいな、と思ったあと、その顔を見て腑に落ちた自分がいた。しかしそれとは裏腹に、奇妙な違和を覚えた。
机に広げられたノートと参考書。少量の消しかすと、置かれたシャープペンシルと消しゴム。一見何もおかしくはない光景だが、そこにいた人物は、違和感というか、俺が感じたことのない雰囲気を漂わせていた。
(───出水?)
彼女は肘をついていて、その視線はノートでも参考書でもなく、窓の外に注がれていた。何かを熱心に見ているわけではなく、ぼんやりと宙を眺めていた。その双眸には普段教室で見るような人懐っこい光は無く、淡々としていて、冷めたような虚ろも見える。
(───いや、虚ろは言いすぎか)
いささか失礼な感想を抱いたことを即座に心中で謝罪し、鞄を肩にかけ直す。
声をかけようか、それとも何食わぬ顔で離れた席を取るべきか。迷っている内に彼女がふとこちらを見た。一瞬その顔にバツの悪そうな表情が浮かんだあと、「奈良坂」と控えめに名を呼んだ。
「‥‥見た?」
「‥‥‥‥、別に、何も」
「見たんじゃん。もっと上手く嘘つきなよ」
「‥‥その、‥‥悪い」
ああ見られたくなかったんだな、と察した頭から、歯切れ悪くも謝罪が滑り落ちた。
出水は「別にいいよ」と苦笑する。
座れば?と出水は隣の空いているスペースをぽんと叩いた。
軽く会釈をして椅子を引くと、「‥‥あのね」と彼女が口を開いた。
「私、学校で嘘ついてるの」
「‥‥嘘?」
「そうだよ。
ねぇ、奈良坂は、学校での私は“どっち”だと思う?」
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作者名:夏向 | 作成日時:2020年9月17日 21時