不可知論 ページ14
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「‥‥ごめんな、ずっと怖がらせてたよな」
「───任務だから仕方ないとは思うし、あんた達の実力を疑ってるわけじゃないよ。ただ、‥‥蚊帳の外の自分が、悔しいだけ」
そのせいで縁起でもない夢を見る。口にしてしまえば現実になってしまいそうな気がして、ずっと誰にも言わずにきた。
頭にかすかな重みを感じて顔を上げた。
公平が少し笑いながら、くしゃりと髪を撫でた。
「へーきだよ。絶対死なない。ちゃんと生きて帰ってくるから」
「‥‥生きてるだけじゃダメ。無傷で帰ってきて」
「はいはい」
ほれ続きやるぞ、と肩を軽く押される。大人しくうつ伏せに寝転がれば、公平は心地良い力加減で凝りをほぐしていく。
台本を読む気にはならなくて、ため息を1つついてから組んだ腕に顔を埋めた。
(───エンジニアとして遠征に関われればいいのに)
内容が内容だけに、鬼怒田さんに頼むこともできない。私が公平にできるのは、トリガーのシステム管理とメンテナンスくらいだ。
(‥‥せめて誰かに、相談できれば)
叶いっこない希望を持っても虚しくなるだけだ。
奇跡でも起きないかなぁ、なんて柄にもないことを考えてみる。奇跡なんて信じるだけ無駄だ。いつだって、未来を決めるのは当事者の行動と、それまで積み重ねてきた実績を伴った努力だけ。あとはほんの少しの運だ。
神頼みも好きじゃない。カミサマなんてものが本当にいたら、努力をする人は皆報われているだろう。報われない努力のほうが圧倒的に多いということをこの目で何度も見てきた。私はたまたま「ほんの少しの運」を持っていただけ。
(‥‥その「運」がカミサマがいる証拠だ、なんて言われそう)
カミサマと運は別物だと思う。けれど一般的には同一視されていることの方が多いだろう。カミサマに見放されたらツキは回ってこなくて、カミサマに愛されたら大体のことは上手くいく。何でもかんでも一緒くたにして考えたがるのは人間の悪いところだと思う。物事がそんなに単純なら、世界ももっと単純なはずだ。
───なのに、だ。無神論者とも言える私が最終的には、遠征に行った彼らの無事の帰りを祈るくらいしかできないなんて、いっそ笑えてくる。
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作者名:夏向 | 作成日時:2020年9月17日 21時