水底のキミ【奈良坂透】 (ページ6)

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仕事ページ6

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パソコンをぱたりと閉じる。
ブルーライトカットの眼鏡を外し、大きく伸びをした。
椅子の背もたれに深く身体を預けたままぼーっと天井を眺めていると、不意に視界に缶コーヒーが割り込んできた。私がよく飲む微糖タイプ。
それを掴む手から腕へと順に視線を移していくと、かろうじてその人物の顔が捉えられた。

「寺島さん」

お疲れ、という言葉と共に、缶を手渡される。
彼は私の隣の、持ち主不在の椅子にどっかりと腰を下ろし、自分のエナジードリンクのプルタブに指をかけた。
ぷしゅ、という音につられ、私も手中のプルタブを引いた。

「最近どう？」

「どう、とは？」

「体調とか、仕事の具合とか」

「特に変わりありませんね」

「ふぅん。オレは相変わらず寝不足でフラフラ」

「はあ‥‥。エナドリでブーストかけてたら寝るべきタイミングで寝れないのも当たり前では。知ってます？エナドリって健康の前借りなんですよ」

「うーん、でも仕事捗ってくるとメシ食べるのも風呂入るのも寝るのも煩わしくなるんだよね。人間としての営み全般がめんどくさい」

「それ大分ヤバいですけど。どんだけ仕事人間なんですか」

今こうして休息を取っているだけでも、まだマシなのかもしれない。
彼の大きな横幅はその思考による結果でもある。トイレに行く必要もないほど代謝効率のいい仮想の身体は、さぞ彼のような人間に重宝されているだろう。

食べます？と鞄の中からコンビニのおにぎりを差し出してみる。軽食のつもりで買ったものだが、彼のこの様子だと今日は食べ物らしい食べ物は何も口にしていないのだろう。

おにぎりを見た瞬間、ぐるる、と寺島さんのお腹が鳴った。問答無用でその手に押し付ければ、感謝の言葉と同時に包装を破り始めた。相当空腹だったのだろう。

「‥‥仕事人間、なんて、人のこと言えないと思うよ」
もぐもぐと咀嚼しながら言った。
はて、と首を傾げれば、「自覚なしか」と呆れた顔をされた。

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