狩場【壱】 ページ10
童磨の狩場と私の狩場は比較的近く、無残様が意図的に仕向けたのではないかと思う。自分の意思でこの場所を選んだが、無意識の内に操作されているのではと考えたことがある。結局、曖昧な事を考えても無意味だと思考を放棄してしまう。今だってそうだ。
貴「(…なんだ?)」クンッ
肉体を実体化させ、裏道にすっと降りる。半刻もすれば夜が明け、鬼は太陽を恐れ姿を隠す。だが、緊張感が感じられないほど…濃い血の匂いがする。この血の匂いは、下級鬼なら理性を失うほど強烈なものだ。
貴「………」
頭がふらつくようなこの匂い、稀血で間違いない。予想はついていたが、苦労して集めた人間が他の鬼に喰われているところを見ると気分が悪い。長い間狩場を空けていた私に落ち度があるとしても、格上の鬼のにおいが染み付いた街に近付く雑魚も傲慢だ。盗みを働くように人のものを食い荒らすなど、人間であった頃もろくな人生を歩んで来なかっただろう。
鬼「あァ…?一足遅かったなァおまえェ…。この稀血は俺が喰っちまったからよォ…クヘヘ」ビキッ
人間にも鬼にも該当することだが、生物は己より遥かに強い力を持つ者に対して恐怖し体が縮こまる。鬼はそれが分かりやすく現れ、格上の鬼が現れれば本能的に死を理解しその場から離れようとする。だが、目の前の鬼は稀血を喰ったことで身体能力が飛躍的に向上して肉体が変化し、極度の興奮状態にある。要は、己が強いと思い込み傲慢になっている。私を前にしても怯えず、今にも襲いかかりそうなほどだ。
貴「……雑魚が」
鬼「雑魚だァ?稀血を喰った俺はなァ、五十人…百人分近い人間を喰ったことになるんだぜェ?おまえみたいなひょろっ子がいかがんじゃねェよォ」
先ほどよりも数倍に膨れた体、腕も血走り太く、人間ならば掴まれただけで全身の骨が折れるだろう。
グシャッと思い切り掴ませてみる。片手で腹部が全て埋まるほどだったが、まるで苦ではない。骨が砕けることもなく、筋肉が潰れることもなく、皮膚すら破れていない。漸く力の差を理解した鬼は、目を見開きだらだらと冷や汗をかく。人の狩場を勝手に彷徨い、庇護していた稀血まで喰った。礼儀を知らないこういう鬼は、私は死ぬほど嫌いだ。
貴「…下らん」
息を吸い込み体に力を込めると、筋肉が増幅し鬼の腕が弾け飛ぶ。鬼は我に返ったのか、腕を再生させることもせずあたふたと逃げ出した。既に東の空が白んでいるというのに、もう手遅れだ。
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