検索窓
今日:3 hit、昨日:2 hit、合計:1,148 hit

目覚め【弍】 ページ9

ベキン…と折った指を齧る。苦労して生きてきたのか、指は細くとも皮膚は荒れていた。己の生に納得がいかない者を、今喰っている。望みを失い快楽を求めた故に死ぬ、救いようのない結末、ならば…僅かでも私の役に立たせてやろうと思った。童磨に寄った思考になっているのは認めるが、私は線を守っている。

貴「…もういい。喰いすぎた」

 喰い掛けの遺体を戻し、汚れた口周りを拭う。致死量にも満たない血、指一本、腹が足を一口、これだけでいい。私の体は僅か血肉でも成長し、充分な活動が行える稀有な体質だった。自分への嫌気からか、あるはずもない罪悪感からか、鬼としての記憶がある時からこうだ。

童「相変わらず喰わないねぇ。それなのにその強さは、人間だった頃の影響なのかな?」

 こうして時折、童磨は答えを匂わせてくる。頭の中や胸の奥からもやけている感覚が不快で、私は人間であった頃の記憶を求めている。鬼として目覚めた時、視界に入って来たのはあの方と上弦の鬼達。尋ねたところで真実など返ってくるはずもなく、「お前は鬼だった」「何故それを知りたがる」などと言われるだけ。童磨の匂わせが癇に障るのもそのせいではあるが、きっかけとなるのなら他よりマシだと思うようにした。他の鬼は見るからに、私の記憶が覚醒することに不都合を感じているようだから。

貴「……狩場に戻る」

童「またねぇ。俺はいつでもここにいるからさ」

 喰い掛けを含め、童磨は慣れた手つきで喰い始めていた。そのまま頬張るか、皮膚から体内へ吸収して衣類すら残らないよう喰うか、喰い方だけはどうしても気に食わない。とは言え、気に食わない理由も分からない。個人がどうやって喰おうと関係なく、干渉する必要もない。私は私なりに力を蓄えていればそれでいい。飼っている人間も複数人いるのだ。むしろ、こちらの方が異端な目で見られている。

貴「暫くは、狩場に留まろう」

 童磨の根城から外を見ると、街の明かりが見えないほどの夜更だった。昼間なら面倒だと思っていたが、丁度いい頃に目が覚めた。
 カタッと、大人の体では通れなさそうな小さな窓を開ける。そこから、夜の闇に身を隠すように黒霧("コクム")となり抜け出した。この根城には、いまだ多くの信徒達が留まっている。同じ信徒が、自分が眠っている間に殺されているなど夢にも思わないだろう。哀れ、愚か、そのような言葉を脳裏に浮かべながらその場を後にした。やはりここは居心地が悪い。

狩場【壱】→←目覚め【壱】



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (1 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
設定タグ:鬼滅の刃 , 嘴平 , 煉獄
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:かんなぎ | 作者ホームページ:http:  
作成日時:2020年11月3日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。