目覚め【壱】 ページ8
〜大正○年〜本編開始一年前
意識が浮上して来た。何年振りに眠ったが、今回も夢見が悪いわけでもなく、ゆっくりと瞼を開いた。以前と同じように、無惨様がお作りになった肉繭の中だった。あの方のお力を以ってすれば、私など眠っている間に潰され糧となっているだろう。そうされないのは、少なからず利用価値があるからか。
童「やあやあ、よく眠れたかなぁ?」
肉繭から出ると、相変わらず陽気に笑う童磨がいた。あの方の召集がない限り、十二鬼月は互いに近づこうとはしない。それぞれの狩場が存在し、その範囲から出ることはない。その十二鬼月の一人である童磨が目の前にいる理由として一番に浮かぶのは、私がここで眠ったからだ。
貴「……私はどれほど眠った?」
童「俺が前に来た時には眠っていたから、一年以上は確かだなぁ。…それより、どんな夢を見たか気になるなぁ」
貴「覚えていない」
童磨のことは嫌いでもなければ好きでもない。鬼とは、互いに協力しない。群れるどころか、下級の鬼は縄張り争いまでする始末だ。十二鬼月は自分の狩場を持ち、基本的にはその範囲から出ることはない。一部例外はあるが、私も狩場を空けている。今頃、何も知らない下級鬼が彷徨いているだろう。
童「つれないねぇ。長い間、人間を喰っていないから機嫌が悪いのかな?ほら、そこに」
童磨が指差した先に、若い女の遺体が山積みになっている。最近死んだのか、腐臭もせず新鮮な血のにおいがする。皆、童磨の信徒だろう。警戒することなく、自分が喰われるとも知らずに罠の中に入り、気付いた時にはこうして死ぬ。人間とは、やはり浅はかだ。
貴「…悪趣味な」
遺体の山に近づくと、更に食欲を唆られる。唾液が分泌され、ゴクリと喉を鳴らす。欲には抗えない、人間を喰わなければ強くなれない。いつから捨てられるか分からない生、あの方の気分で消える灯火、我ながら何と哀れなことか。
童「君が残しても、俺が全員喰ってあげるからねぇ。折角死ねたのにそのままなんて可哀想じゃないか」
一番近くにあった遺体の頭を掴み持ち上げると、血のせいでずるりと滑る。垂れた髪をはらい、獣のように首に喰らい付く。皮膚を破って溢れる血、それが咥内を満たし喉に流れてくる感覚は恍惚とする。人間を喰う頻度が少ないからなのか、何度血を啜ってもこの感覚に慣れない。慣れてしまえば、貪り尽くすことが日常になりそうで不快だったのだ。
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