人であった頃の…【伍】 ページ6
頭を下げた時、バタバタとはっきりとした足音が近付いてくる。縁側を踏みしめる音が聞こえる。
◻「はぁ…はぁ…、A様…!」
鍛錬でもしていたのか、袴に染み込んだ汗がそれを物語る。まだ五つでありながら、立派に剣客としての道を進んでいる。曇りなき眼は燃えているようだ。
◻「父上から…聞きました。ここを離れると…」
私がいることに気付いて、鍛錬場から走ってきたのだと言う。まだまだ子供だと言うのに、現実を理解しているのか。何も言わずに変えようと思ったが、そうもいかなくなった。
貴「…今後、ここに寄れるかは分からない。あっさりと死ぬか、しつこく生き残るか見当もつかない」
黄色と赤の燃えるような髪をふわっと触り、頭を撫でる。現実を理解すると言うのは、残酷さも分かってしまう。少年は瞳を潤わせながらも、涙を流すことはなかった。こんな私に、任務の話や鬼の話を聞いてくるような好奇心旺盛な子だ。
貴「杏寿朗、私の話を聞いてほしい」
煉獄殿に向いていた体を、立ったまま俯く杏寿朗の方へ向ける。座ったままでも同じ背丈で、これから大きく成長していくだろうと思うと口元が緩む。
◻「…はい!」
貴「君は、本当に素晴らしい両親に恵まれた。剣客としての才能も、人を想う心も、君にはあると思っている。ご両親から頂いたものも、自分が手に入れたものも大切にしなさい。私のようにはなってはいけない」
自暴自棄になっている自覚はあった。ここで考え直して、落ち着き、鬼殺隊に留まる選択も間に合った。それでも、地獄行きを選んだ。自分も捨て、仲間も捨て、居場所も捨て、鬼を殺すことだけを求めた。杏寿朗には、仲間を大切にして、煉獄殿のような情熱を持って生きてほしい。私が望むことはそれだけだ。
◻「…俺は、父上を尊敬しています。でも、A様からも学ぶことが多くあります!これからも、先に生きる者として……俺は…」
貴「君は優しい子だ。君のような子がいる煉獄殿が羨ましい。……私は、母となることはできないから」
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