霧中の記憶【鬼滅の刃】 (ページ4)

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人であった頃の…【参】ページ4

～明治○○年/当時19.20歳～下町にて

　珍しく訪れた甘味屋で菓子を頬張っていると、連れからめでたい話を聞くことになった。嫁入りし、子を授かったと言うのだ。月のものが来ていないことは聞いていたが、懐妊が確定したのなら喜ばしい。

貴「何か、懐妊祝いに贈り物をしなければな。新しい浴衣でも、綺麗な簪でもいい。好きな物を…」

　覆い被さるように、連れはぬっと目の前まで近付いた。訳の分からないまま前髪を上げられると、頭上でパチンッと小さな音がした。何をされたのか分からないまま手で触ると、装飾された髪留めだった。

貴「受け取らない。何かを贈るのは私の方だ。それに、私に綺麗な物は似合わないだろう」

◻「…ずっと、何か渡したかったんです。子供ができて、少しお金も貰えました。だから…」

　連れは、髪飾りを外そうとした私は手を取った。受け取ってくれなければ泣くぞ、と言うような顔をされては折れるしかない。ずっと渡したかったと言われれば、それを汲んでやるのが正しいのかと自分に言い聞かせる。

貴「…ありがとう。髪が邪魔で前が見えづらかった。任務中に無くさないよう気をつけなければ」

　人から贈り物をされたことはなく、柄にもなく舞い上がっていた。そのまま買い出しに行ったものの、連れは生まれてくる子供に使う物がいいと頑なだった。美しい容姿に恵まれ、着飾れば更に美しくなるのだが…とは心の中にしまっておいた。愛おしそうに自分の腹をさする姿を見ると、お節介だと思ったからだ。結局、何枚かのお包みを贈っただけになってしまった。

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　何度か彼女の嫁ぎ先を訪ねたが、私がいる時はぺこぺこと頭を下げ機嫌を取ろうとして来る姑と旦那。その後、何故か彼女に暴力の矛先が向くのだ。会う度に増えている痣を見てしまい、申し訳なく下町でしか会えなくなっていた。何故、これほど優しい子が…

◻「伊之助って言うんです」

　花が咲いたように笑う彼女は、生まれた子供を宝物のように抱えていた。贈ったお包みも役に立っているようで、母親似の赤子は泣くことなくじっとこちらを見つめていた。赤子には泣かれた経験しかない為、私としても新鮮な気分だった。