霧中の記憶【鬼滅の刃】 (ページ24)

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感じる心【壱】ページ24

手に取るように、下弦の伍の位置が分かる。先ほど脅した女鬼の気配も近くにいる。山から鬼の気配が二つほど消えたが、鬼狩りに殺されたのだろう。

貴「(空…？)」

　気配が近づいて来る。遥かに高さが違う、空を見上げると人間が空を遮った。明らかに不安定な体勢、自らあの高さまで跳んだとは思えない。あの高さから落ちれば助からない、運良く生きたとしても全身骨折で長くは持たない。あぁやって鬼狩りは死んで行く。助けが入れない状態なら尚更のこと。

貴「("若い芽が枯れるのか"…)」

　無意識に踏み出す右足、何故あの鬼狩りを追いかけているのか分からない。勝手に死んでいく鬼狩りなど、これまでも何十何百人と見送って来た。今の青年もそのなかの一人に過ぎないと言うのに、私は何故助けようと動いているのだろうか。確かなことは、体がこうしろと勝手に動いていることだ。この体に宿る意志、消えることのない情熱、何かを思い出そうとすると軋む頭を振り切って体を稼働させる。屈しない。

貴「"晦冥・柔ノ型"」

　飛ぶ少年に霧を纏わせると、僅かながら速度が落ちる。間に合わないことは察していて、後は少年の技量で生きるか死ぬか決まる。やはり、感じるのだ。あの少年を死なせるには惜しいと。これから何百もの鬼の頸を斬り、成長していくのだろうと本能が物語る。尚更殺さなければならないことも理解しているのだが、どうしようもないこの高鳴りを抑えられない。

　落ちた少年は生き延びただろうか？はたまた、全身の骨が折れて死んだだろうか？鬼の気配が強く、それを優先して感じ取ってしまう。何故だ…

◻「ｷﾞｬｱｱｱｱｱｯ」

　先程の女鬼の声、悲痛な叫びだ。気配はそのまま、鬼狩りに斬られたわけではない。目に神経を集中させ、鮮明になった視界で木々の奥を見つめる。耳も、肌も、全てを研ぎ澄まし場を観察する。

◻「ねぇ、こそこそと見ないでよ。いくら鬼だからって、こうも見られると気持ち悪いよ」

貴「(……なんだ、気付く程度は可能なのか)」
　
　ﾋｭｯと、1丁ほど移動する。生意気な口を叩く目の前の子供は下弦の伍。無惨様のお気に入りであり、十二鬼月であるからと私を見下す。態度としては間違っていないが、どうも癪に障る。やはり、鬼は嫌いだ。