蜘蛛の縄張り【参】 ページ22
結局、あの鬼は累の居場所を吐かなかった。脅されているのは間違いなく、聞こうとすれば冷や汗をかいて青い顔をしていた。無惨様の名前を口にするような恐怖感にも似た、暗い感情が見え隠れしていた。攻撃を仕掛けてきたわけでもなく、むしろ私が先に手を出したのだ。見逃してやるのも悪くないと思った。
貴「(無惨様のように、他の鬼の居場所を察知する方ができれば楽なのだが…)」
全ての鬼の位置を把握する能力、無惨様が持つ力には羨むべきものが多くある。私がここに来ていることも気付かれているだろうし、気分次第では一歩も動かずに私を殺すこともできる。そうしないのは、また利用価値があるから……だと思っている。
貴「(……この気配、また人間が山に入ったのか)」
山の入り口付近から、人間の気配が三つ。まだ若い、鬼狩りになって日が経っていないような感じがする。たった三人だけ増援を送ったところで、ここの鬼に喰い殺されて終わるだけだ。この山に来た人間は、私の把握する限りでは四十〜五十人はいたはず。この全ての死を見届けた。無論、助けるなどしない。他の鬼が人間を殺したところで救う義理などない。
ズキッ…と、軽い頭痛がした。近頃、鬼狩りを見ていると気分が悪くなる。嫌悪感による頭痛ではなく、頭の中のもやが更に濃くなるような感じがする。忘れていることを思い出そうとする時、激しい痛みに襲われることがある。それと似たような感覚故に、余計に気分が悪くなるのだと思う。この気持ち悪さを拭たくて各地を回っているのだが、手掛かりを手に入れるどころか遠回りしている気がする。鬼狩りからしてみても、何処に現れるか分からない不気味な鬼。警戒されるのも無理はない。頭の悪いことをした。
貴「(人間の気配が移動した…か)」
どの辺りに居るかは分かる。山に入った三人の内、一人…むず痒くなるような子供がいた。その気配を感じるだけで呼吸が詰まるような、何とも言い難い。見たこともない、戦ったこともない、記憶にすらいない者に圧迫されるのは……実に妙だ。
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