蜘蛛の縄張り【弍】 ページ21
蜘蛛を潰しながら木々の間を走り、時折太い枝の上から辺りを見渡す。鬼と人間の気配が混ざっている、交戦中か…一方的な虐殺かのどちらかだ。
◻「………」
白い鬼が見える。人間の気配が薄くなり、その鬼だけが上を見ている。つられて視線を移すと、丸い繭が内側からもぞもぞと動いている。どうやら、鬼狩りが血鬼術に囚われ戦闘が終わったところのようだ。
貴「お前、下弦ノ伍の手下か」
気配を殺し最後に回り、頸を掴む。頸を掴まれ身動きを封じられたところで、鬼はようやく私の存在に気付く。見るからに十ニ鬼月ほどの力もなく、百人喰ったかどうかだ。筋肉の硬直が掴んだ頸から感じられ、本能的に危機を察知しているようだ。ずる賢い奴だ。
◻「(声が出ない…!コイツ…累より…)」
貴「随分と狡猾だな」
肉が溶けるような音が繭の中から聞こえる。人間が苦しむ声も、同じ所から聞こえる。この鬼の血鬼術は繭の中に獲物を閉じ込め溶かすらしく、喰われる人間は跡形もなく死んでしまうのだろう。私が最も好まない、不快で残忍な方法だ。
◻「…じょ…上弦…?」
貴「…侮辱も良いところだ」
鬼にもそれぞれやり方がある。この鬼からは下弦ノ伍のにおいがする上に、血鬼術も何処か似ている。無惨様の気に入られているからとつけ上がり、こうして役に立たない鬼を増やしているのか。
興が冷めた。女鬼の頸を離し、ガッと胴を蹴る。纏わりつく糸も、この鬼の怯えた顔も、鬱蒼と茂るこの森も、全てが気に食わず不快になる。先程、私のことを上弦と言ったことにも嫌気が差す。瞳に数字が刻まれていない鬼など、その辺りの雑魚と変わらない。全てに鬱憤が溜まるのは、私に怒りしか無いからだろうか?感情を制御できない愚か者、だから弱いのか。
◻「(上弦でもないのに何よコイツ…!体が…)」
貴「そう怯えるな。私はお前に興味が湧かない。……だが、お前に力を与えた鬼には興味がある」
下弦ノ伍…"累" 他の鬼に力を与え、この山で生きる鬼。何が目的で駒を増やしているのか、何故…下弦でありながら無惨様に気に入られているのか。鬼となった要因や人間であった頃の生き方が理由ならば索敵できる事はないが、気に食わねば処分してしまおう。
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《作者の独り言》
◾鬼に対して嫌悪感が隠せない…ような書き方をしてますが、作者は累達好きですよ!母鬼サイコー!
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