人であった頃の…【弍】 ページ3
〜明治○○年/当時18歳〜煉獄邸にて
貴「ご無沙汰しております。無事、任務から帰還しましたのでご報告にあがりました」
お館様への報告を終えると、私は決まって先達の柱達に挨拶回りをするようしている。柱と言えども、再生能力の無い人間。いつ死ぬか分からない今を必死に生きている方々なら、尚更記憶に残しておきたいと思っている。入隊当初からは考えられない心境の変化だ。
◻「戻ったか。怪我も無く何よりだ。お館様も、お前を褒めていた。柱としてよくやっていると」
貴「……煉獄殿が、家族とは何かを教えて下さったおかげです。貴方の強さや情熱はそこから来ているのだと、私も志を高く持とうと思いました」
柱となってから、必然的に人と関わる機会が増えた。柱達に会うのは勿論のこと、負傷すれば治療所にいる者達とも出会う。一般隊士の応援に駆けつけることもあれば、指示をして市民を逃すこともする。それを重ねていくと、私がどれほど小さく頭の硬い人間であったことかよく分かる。要は、幼かったのだ。
◻「おはようございます！くろばしらさま！」
貴「…君は、相変わらず元気がいいな」
一年前、初めて煉獄邸を訪れた時からこの子は変わらない。煉獄殿にも容姿が似ていて、小さな体からも情熱が伝わって来る。子供は親の背中を見て育つと言うが、この子は将来隊士になるだろう。炎の意思を継ぐ者として、鬼を狩る。その生き様を見てみたい。
◻「来たのか、杏寿朗」
煉獄殿に駆け寄る姿を見ると、家族の温もりを感じる。走るにはまだおぼつかない足を懸命に動かして、倒れ込みながらも父の元へ行く。親の愛を受け、愛を返す。家族としては当たり前のことを、家では感じることができなかった。初めてこの光景を見た時、私がどれほど悪い環境に置かれていたのか理解できた。
◻「……ん？なんだじろじろ見て」
貴「いえ、少し考え事をしておりました。お子さんが元気そうで…温かい気持ちになれました」
温かい家族、愛、鬼はそれを壊す。日常が容赦なく壊され、生きる希望を無くす者もいる。復讐心から鬼殺隊に流れ着く者もいる、それは様々だ。鬼によって奪われたものを取り返すことはできない。だからこそ、奪われる前に阻止しなければならない。私も、人間を守りたい意志を、強く持て。
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