蜘蛛の縄張り【壱】 ページ20
鬼狩りは、被害が多く報告される地域に駆り出される。被害拡大を止める為、鬼を始末する為、妥当な理由だ。最近ではそれを頼りに、鬼狩りが集まる場所は足を運ぶようになった。獲物は多ければ多いほど手間が省け、あまり目立たなくて済む。
貴「(…嫌な気配のする山だ)」
短期間で型を磨いた後、人狩りをする為に夜を彷徨った。人間のにおいがする場所からは、決まって鬼の気配する。鬼は群れることをせず、自分の狩場を持つことが普通だ。私ですらそうするのに、ここからは複数の鬼の気配がする。山を住処にしている時点で効率が悪いのだが、下の奴のやることは理解できない。
貴「(…なんだ、蜘蛛の糸か？)」
力を皮膚に纏わせると、体を這い上がって来た蜘蛛はぽとぽとと地面に落ちて消える。白い体に赤い目、蜘蛛のような鬼は心当たりがある。無惨様がお気に召していた鬼のようだが、私はよく知らない。
貴「(人間のにおいが多い…、十数人はいるな)」
殺されるとも知らず、上の命令でのこのことやってくる。柱の気配も感じない、偵察程度の戦力だ。それが鬼に殺されようと、尻尾を巻いて逃げようと、私は干渉しない。生きるのも死ぬのも自分次第、私は死ぬことを恐れているのではなく…無意識に抗いたくなるほど嫌なのだ。無惨様の支配からも、生まれつきであろう精神力と細胞の緻密な制御で逃れている。
激痛に耐えながら日の下に出て体を炙るのも、少しでも光に触れたいと思うから。自分が人間としている生きていた頃の記憶は綺麗に忘れているが、あの弱い生き物への羨望は何とも醜いことか。
貴「鬼殺隊…ね」
一人、空を見上げながら感慨に耽っていても時間は進む。鬱蒼な木々から覗く月は美しく、あれのように目で追ってしまう剣技を身につけたかった。感覚で使っている己の剣技は美しいと言うよりも、相手を殺 すことに特化したようなものばかりだった。それほどまでに憎み、恨み、殺したい相手が居たのだろう。今はもう、何も覚えていないが。
ｷｭｯ…と喉が締まった気がする。先程の白い蜘蛛が近くにいる…それも数が多い。十ニ鬼月の中には私をよく思わない者が居ると聞いていたが、下弦ノ伍もその一人だと言うことか。邪魔者を排除したい意思が蜘蛛から読み取れるが、手下を使って来ている。十ニ鬼月でない私を舐めるのは仕方がないことだが、こうも歓迎されないとは心外だ。
貴「(無惨様のお気に入りだからと…生意気な)」
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