鬼の首魁【壱】 ページ17
心が躍った。肉を喰った時に感じるものとは違い、体が熱くなるような激しい感覚だった。記憶の中で、こうも自然と刀を抜きたくなったことはなかった。術を破られた驚愕も、肩を抉られた痛みも、私にとって刺激的なものだった。柱とは、あぁも楽しませてくれるものなのか。
貴「(人間相手に刀を抜いた…か)」
実のところ、刀を抜いたのは無意識の内だった。刀を抜くことが自然な生涯で、体に動きが染み付いてしまうほど振っていたのだろう。教えを乞う前も、剣術として完成していたと言われた。この肉体の成長速度は著しく、新たな型や進化した型まで編み出した。
鬼が力を振り翳し人間を弄ぶ事を、私はどうしても好まない。じわじわと追い詰め、絶望と恐怖を与え、貪り喰うことが受け付けないのだ。だから私は刀を抜かずに鬼狩り共をあしらってきた。気付けば、鬼狩りを舐めきっていた。柱に先手を許したのも、傷を負ったのも、私が招いた失態だ。無惨様に顔向けできない。
ベンッ スゥー…スパーン
貴「(鳴女の血鬼術…)」
目の前に襖が現れ、間髪入れずに吸い込まれた。理由は見当がつく。膝をつき、首を上げることはできないが、ひしひしと怒りを感じる。体の中にある別の細胞が今にも暴れ出しそうで、抑えるのに必死だ。
貴「………」
無「貴様、何故私の命に従わない。何故柱を殺さない。貴様は柱一人に負けるほど弱いのか?」
強靭なこの体ですら押し潰されてしまいそうなほど、重く殺意のある声だ。今は女の姿らしい。
貴「…殺すのは惜しい武人でした」
ザシュッ…と、腕が千切れる。どうやったのかは分からないが、なかなか再生しない。無惨様の細胞が治癒力を阻害しているのか、もごもごと気持ち悪い感覚が切断部にある。血を流し過ぎると、人を喰いたくてたまらなくなる……それは駄目だ。
貴「…ぐっ」
僅かな血飛沫をあげながら腕が生えてくる。他の鬼と比べても優れた再生能力と、無惨様ですら容易に制御できないこの精神力のせいで、私は嫌われている。中にある細胞が、私の細胞に拒まれさほど機能しない。
無「貴様は常に気に食わん。鬼狩り共は私を狙う、鬼を狩る。殺すのが惜しいだと?私を馬鹿にしているのか?貴様は鬼でありながら鬼狩りを生かすのか?」
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ