対 謎の鬼【弍】冨岡義勇目線 ページ16
何故、名を知りたがるのか分からない。だが、僅かな隙さえ作れれば反撃に出られる。捨て身になろうとも、この鬼だけはここで頸を落とさねばならない。
義「……富岡義勇」
貴「義勇…か、良い名だ。お前が今後も鬼狩りを続けるのなら、いずれ私の頸を落とすといい」
表情には出ないものの、鬼は満足そうに振る舞いながら刀を鞘に収める。刀を離したのなら斬り込むべきだが、先程の技を見極められていない。呼吸使いであるならば、まだ多くの手を残しているはずだ。
義「ヒュゥゥゥゥ…」
逃がすわけにはいかない。呼吸を整えろ、全神経を研ぎ澄ませ、筋肉の筋一本一本に至るまで究めろ。
義「"水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱"」
ダンッ‼と地を蹴り、近くの建物も利用し、鬼の周囲を駆け回る。僅かな死角でもいい、それさえあれば斬り込める。流血も呼吸で止め、剣線にブレはない。更に息を吸い込み、頸に狙いを定める。
貴「私を殺せば、そこに転がる鬼狩り共も死ぬぞ」
義「……!」ビクッ
鬼の言葉に耳を傾ける必要はないはずだ。倒れている隊士達を苦しめ続けているのは、紛れもなくその鬼だ。俺を止める為の脅し、油断を誘う罠…。
義「(…どう言うつもりだ)」
鬼は……黒霧と名乗った鬼は俺ではなく周囲を警戒しているようだった。少し離れた所に複数の鬼の気配がすることは察していたが、ここに近づく気配はなかった。この鬼を始末してから向かおうと考えていたのだ。黒霧は何を気にしている?視線が合わない。
義「………」
鬼と隊士達の間に入る。鬼からは殺意を感じられないうえに、戦意すら消えている。刀を収めた時点で、俺は戦うに値しないと言われたような気分だ。
貴「…義勇、お前は強い剣士だ。そんなお前に、私は恐れをなして逃げたことにしよう」
どんな意図があるのは読めない。怯えている様子もなく、追い込まれているのはこちらの方だ。手負いであり、隊士達も生きたまま放置されている。ここで鬼が引く理由などない。鬼は妄言ばかり吐く。
貴「……普段なら手や足を貰っているところだが、お前をがらくたにするのは惜しい。そう思った」
誠意すら感じる…一人の剣士の目をしていた。虚だった金色の眼は、しっかりと開かれている。これまで斬ってきた卑劣な鬼共とは似ても似つかない。
貴「強き者に頸を落とされるなら…本望だ」
鬼は自分の頸を摩ると、霧のように消えてしまった。俺は、見逃されたのか…
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