042.「宜しく頼むよ」 ページ44
悪夢の女装の依頼から数日経った或る日の事。
ひたすら此の仕事に少しでも早く慣れる為、雑用から事務作業やら率先して常に笑顔を絶やさず、仕事に勤しんだ。
今では事務員より電話が鳴ったら先に取っては、営業トークで会話。谷崎君の代わりに手代を遣ったりして依頼主に無駄に気に入られたり……とまあ、難なく円滑に仕事をこなしている。
そんな感じで俺の社の中のキャラが定まりつつ有った。
「久城。アンタに仕事を頼みたいンだが」
「与謝野さん!はい、何なりと」
にっこりと渡されたのは莫大な量の書類リスト、買い出しリスト、身辺の外回り………
「これ全部、今日中に終わらせられるかい?」
社に掛けられている時計をちらっと見れば、時刻は昼。正直云って此の量を今日中に終わらせるのは無理が有る。だが断れないのも新人の性。
__俺は表情筋を上げてにっこりと微笑んだ。
「終わらせます。お任せあれ!」
「ふっ。宜しく頼むよ」
……何故か鼻で笑われた。与謝野さんは其の儘医務室に消えて行く。…何だったんだ?
まあいいや、と気を取り直して作業に取り組む。
机上に乗る書類の量は漫画で見られる様な高さで、一枚一枚が重要なものだった。
幸いな事に書く所は少なく、サインと判子を押すだけの単純作業。営業で有りがちな売上記入とか余計な書き作業では無いので迅速に済ませていく。
やっとの思いで書類作業を終わらせ、買い出しと外回り行く為の準備をして颯爽と探偵社を出た。
外に出れば既に夕日は落ち始めていて、急ぎめで与謝野さん御用達の店で大量の買い出しを済ませては、荷物を抱えて其の儘外回りへ。
特に変わり映えしない風景を歩いて、異常が無い事を確認してから、探偵社に戻る頃にはすっかり空は闇に染まっている。
社へ戻って来たら人も疎らだった。自分が戻った事を国木田に報告。
其の際に与謝野さんが医務室から姿を現して、俺を見つけては早足で近付いて来た。
「久城、仕事は何が残ってるンだい?」
「いえ、此の報告書を書いて提出したら今日の業務は終了です」
与謝野さんは目を見開いて固まった。
……矢張り流石に遅過ぎたか。早く終わらせる事を意識すれば善かった、と後悔していると肩をガシッと掴んでくる。
「早いじゃないか、久城。正直今日中には終わらないと思ってたンだよ」
「が、頑張りました…」
俺は心底安心した。安堵感から柔らかく微笑むと、与謝野さんは鋭く俺を睨んだ。
………此の違和感は何だ?
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作者名:澪 | 作成日時:2016年6月12日 11時