031.「しがない一般人です」☆ ページ33
「なっ……おい!待て!」
待てと云われて待つ輩など居ないだろう。時には逃げる事も大事だと、師で有る祖父さんに云われた事が有る。
今が其の時。幾ら武術を叩き込まれて居ようと、相手が悪過ぎた。
今の俺にはプライドなど、とうに棄てて逃げる事に専念した。
太宰と合流した方が善いのだろうが中原と鉢合わせしてしまっては、此方に呼ぶ事も此方から行く事も出来ない。
だから逃げる。来た道を戻る様に走って走って走りまくる。
ヒールを履く脚が縺れそうになっても構わず走る。
椿姫が追い掛けようとする中原を妨害しているのが音で判る。椿姫は刀で中原を止めている様子。
無我夢中で走ると其処は行き止まりで、俺は立ち止まってしまった。
すると背後で壁の壊れる音、硝子が割れる音が間近で聞こえる。
中原の強烈な拳が、椿姫の腹部に直撃。椿姫は勢いの儘吹き飛ばされて壁に激突。壁に大きな穴が出来た。
背後を瞬時に振り返れば、息一つ乱さずに立つ中原がいた。
「貴方の身体の何処に、そんな力が有るのか甚だ疑問しかありません」
「軽く力を入れただけだが、思いの外吹き飛んじまった。……手前が逃げなきゃこんな事にはならなかったぜ?」
「……貴方の部下をあんな目に遭わせた事は謝ります。ですが、最初に銃を向けて来たのは貴方の部下の方ですよ?」
俺は身の潔白を晴らす様に両手を挙げる。中原は鋭い目付きで俺を睨む。
「手前……何者だ?」
「只の、しがない一般人です」
………“ 元 ” ね。
俺がにこやかに、且つ最後にボソッと呟くと、中原は一瞬にして俺の目の前に来ては胸倉を掴んだ。
「そろそろシラ切るのを辞めた方が身の為だぜ。
__答えろ」
「どうぞ、煮るなり焼くなり何なりと。私からは何も云う事はありませーーー」
俺は最後まで云う事は叶わなかった。胸倉を更に引っ張られて中原との距離が零距離になり、口を塞がれたからだ。
「んんっ………!」
乱暴な口付けは気が動転する程、絶大な効果を
咄嗟に押し返そうとしても存外中原の力が強すぎて押し返せず、逆に中原は俺の身体ごと押し倒す。
未だに口を塞ぐ荒々しい『其れ』に酸素を含む事も許されず、目尻から生理的な涙を零す。
激しく抵抗し、やっとの思いで酸素を含むと中原は俺の手首を押さえ付ける。そして中原の直ぐ後ろに椿姫が聳え立っているのが見えた。
そして俺は心の中で浮かび上がる文字を思いの儘紡いだ。
「憑依しろ___椿姫」
032.「答える義務は無いので」→←030.「派手に遣ってくれたなァ」
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作者名:澪 | 作成日時:2016年6月12日 11時