【文スト】世は短し歩けよ青年【太宰】 (ページ28)

今日:10 hit、昨日:6 hit、合計:113,685 hit

026.「覚えてなさいよ」ページ28

招宴が開かれる高層ビルの正面から、太宰のエスコートで潜ると案内役の男に導かれ会場へ案内される。

其の間エスコートする太宰は実に紳士的で、俺も短時間の間女の仕草など勉強したので其れなりに様になっている二人組だろう。何故ならば、俺等が歩いている処を見る外野の目は俺等に魅入っているからだ。

外野の会話に聞き耳を立てれば「綺麗」だの「美しい」だのを喋る声が聞こえてくるので、俺が男だと云う事はバレていない様子だ。……任務的には助かるが、俺的には何にも嬉しくない。

程無くして会場に辿り着くと、既に政府関係者の重鎮の人間が何人も居る。

案内役の男が離れ、太宰と共にウェイターから飲み物を受け取り乍ら壁際に待機し、周りに誰も居ない事を確認すると太宰の耳元で小さく話す。

「……一応確認だけれど、今回は議員の動向を見て、怪しい処が無いか証拠に収めれば善いのかな？」

「くふっ…………うん、其れで大丈夫だよ蓮」

「チッ…覚えてなさいよクソ太宰」

極力汚い言葉遣いをしない様に心掛けていたが、太宰の態度に思わず舌打ちをしてしまい、纏まり無い言葉遣いになってしまった。

そして別々で行動する事になり、手当たり次第議員と挨拶をする。実の無い会話に作り笑顔を張り付け乍ら、目線だけ周りを見てみると予め資料で見た議員達の名簿に載っていない人物が映った。

然りげ無く会話の輪から逃れて、一人で酒を嗜む男に近寄り愛想の良い笑顔を浮かべて、声を掛ける。

「初めまして。…御一緒しても？」

「……ああ」

近くを通ったウェイターから飲み物を貰い、男の隣で一口飲む。横目で男を見ると、少々目付きの悪い小柄な男だ。……矢張り資料に書かれた名簿には載っていない。

「先程からお一人で居られる様ですが……本日はお一人で？」

「…そうだが」

「ふふ、そうですか。此処のお酒、矢っ張り政府の招宴だけ有ってどれも美味しいですよね。つい、飲み過ぎちゃって…」

「あ、おい……！」

俺は立ち眩みを起こしたと見せかけて、男の向く方に身体を預けると男は咄嗟に俺の身体を支えた。そして男の耳元に口を寄せる。

「……御免なさい。少々気持ち悪くなってしまって……あの、宜しければ二人で夜風に中りませんか？もう少し貴方と話してみたいのです」

「……構わないが、歩けるか？俺が支えになるから掴まってろよ」

「有難う……お優しいのですね」

ニコッと微笑んでみれば、男は心無しか顔を赤くした。……チョロいな。