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このまま家に帰ってしまおうか、なんて無慈悲な考えがわいてくる。
そのとき、少し泣きそうなAの姿が脳裏をよぎった。
Aは僕の大切な人なんだから、
Aを泣かせちゃいけない。
僕は男の子で、Aは女の子なんだから、
僕がAを守らなきゃ。
生まれたての動物の赤ちゃんみたいに震える手足を、必死に動かして廊下を進む。
当たり前のことだけど、廊下を進めば進むほど、教室が近づいてくる。
やだな、こわいな。
ドアの前に立って、そっと深呼吸をする。
取っ手に手をかけて優しく右に引っ張ると、がらがらがらと音がしてあっけなくドアは開いた。
Aと目が合って、僕はもうどうしたらいいのか分からなくて。
そんな空気に気づいているのかいないのか、Aは笑顔で僕に駆け寄ってきた。
ぴらり、と一枚の紙を僕につきつける。
「真冬先生、テストできました!」
見るのが怖いなあ、問題作ったのは僕なのに。
声を出せなくなって、いつもの軽口すら叩けなくなって、ふいと視線をそらす。
なにやってんだ、しっかりしろ僕。
次の瞬間、あろうことかAは音読を始めた。
「といいち、次の問いかけに対し、英語で返事をしなさい。ただし、素直にAの本当の気持ちを回答すること。
かっこいち、あくちゅありー、あいはぶらぶどゆー、しんすめにーいやーずあごー。はうあばうちゅー?
かっこに、あいぷろみすざっと、あいおーるうぇいずめいくゆーはっぴ−! くっじゅーびかむまいがーるふれんど?」
カタカナ読みだけど、っていうかもはやひらがな読みだけど、全部の単語を間違えずにしっかりと声に出すA。成長してる。
いやまあね、確かに英文の音読はいい練習になるって言ったよ。言ったけどさ。
改めて僕の英文を聞くと、Aにも伝わるように極力簡単にしたこともあって、ほんっとに恥ずかしい。
顔にぶわあっと熱が集まるのを感じる。
Aは、真っ赤になるのを隠し切れない僕を見て笑うと、すうっと息を吸い込んだ。
「私の答えはね。」
「あいうぉんととぅーびーゆあがーるふれんど。あいむらびんぐゆー!」
「I want to be your girlfriend. I'm loving you! って言ったの…?」
「うわー、真冬の英語っていつ聞いても完璧だよね…。」
少し照れながら僕を褒めてくれるところをみると、きっとそう言ったんだろう。
『私はあなたの彼女になりたいです。私はこの瞬間もあなたのことが好き!』
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ちょこ - かのこゆりさん» いえいえ、おかえりなさいです!コーヒーのお話、切なくてよかったです!また、コーヒーの違ったエンドや、コーヒーのまふくんsideも欲しいです! (2020年9月19日 10時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり(プロフ) - ちょこさん» コメントありがとうございます!返信遅くなってしまいすみません。実は受験生でして、受験勉強に集中するため活動休止していました。無事合格通知が届いたので、まもなく執筆再開予定です!気長に待っていただけると幸いです〜! (2019年12月25日 11時) (レス) id: fcfa2aebad (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!あとコーヒーの方のまふぃくんさお殿お話も!(´;ω;`) (2019年12月5日 20時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり(プロフ) - ともさん» コメントありがとうございます!すごく嬉しいです…。この作品は、キーワード(「喫茶店」など)を交換しお話を書く、という一風変わったコラボになっております。実はあと2作品分のキーワードを頂いていて、現在執筆中です!気長に待っていただければ幸いです! (2019年10月26日 23時) (レス) id: a6d1b02f5a (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 好きです!続き待ってます! (2019年10月24日 20時) (レス) id: 25fb5b2d6d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かのこゆり | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kanokoyuri/
作成日時:2019年10月3日 23時