あまくてにがい、コーヒーひとつぶ。 ページ16
持ち手までほんのりあたたかいカップを持ち上げると、ふわり、とコーヒーの香りが広がった。
都会の中では珍しく、音楽が流れていない喫茶店。
それでも、私は心地よい音に包まれる。
かちゃかちゃ、とカップがぶつかる音。
ごりごり、と丁寧にコーヒー豆を挽く音。
さらさら、と綿のような粉砂糖が溶けていく音。
うるさくなくて、耳障りじゃない、自然な音。
ミルクをとろりと回しいれる。
黒に限りなく近いこげ茶に、真っ白で映えるうずまきが浮かんで、そっと消えていった。
私が相当常連だからっていうのもあるけど、いつ来てもミルクの量が好みぴったりなの、すごいと思う。
ほう、とため息をひとつ。
私がカップを置いたのを見て、おしゃれなエプロン姿の相川さんが、私に笑いかけた。
「松川さん、今日もありがとうございます。課題の進み具合どうですか?」
「やっぱり、ここのコーヒーはいつ飲んでも最高です。まあまあ、といったところですね。」
もう長い間毎日のように通い続けているこの喫茶店。
店員さんはふたり。
店主の栗原さんと、店員の相川さん。
ふたりとも落ち着いてて、上品で、気を配れて、本当にすごい人たちだ。
初めて出会ったときのことをふと思い出す。ああ、懐かしい。
相川さんと出会ったのは、忘れもしない、私が大学3年生になってすぐのこと。
♪ ♪ ♪
初めは、気にもとめないくらい、ささいなきっかけだった。
図書館で資料を探していたとき、高い棚に手が届かなくて困っていたら、さりげなく助けてくれたとか。
キャンパス内の生協で、同じお弁当を買おうとしていたとか。
そんな小さなことだけど、なぜか結構な頻度で会うことがあったから、すれ違うたびに会釈するくらいの仲に自然になっていたと思う。
でも、きちんと面と向かって話したことはなくて、「よく会う優しい人」くらいの認識でいた。
ある日の五限目。
大好きな古典の短歌の講義で、私はわくわくで講堂に向かっていた。
講堂の中に入ると、私は目を見張った。
友達とわいわい談笑する学生で、ほとんどの席が埋まっていて、座れそうにない。
あれ、この授業ってこんなに人気だったっけ、と首をひねりつつ席を探す。
初対面の人と隣同士はなんとなくきついから、みんなひとつずつ席を空けて座っているせいかもしれない。空いてそうで空いてない。
巨大なスクリーンの上にかかった時計に目をやると、あと5分で授業開始時間だ。
どうしよう。
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ちょこ - かのこゆりさん» いえいえ、おかえりなさいです!コーヒーのお話、切なくてよかったです!また、コーヒーの違ったエンドや、コーヒーのまふくんsideも欲しいです! (2020年9月19日 10時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり(プロフ) - ちょこさん» コメントありがとうございます!返信遅くなってしまいすみません。実は受験生でして、受験勉強に集中するため活動休止していました。無事合格通知が届いたので、まもなく執筆再開予定です!気長に待っていただけると幸いです〜! (2019年12月25日 11時) (レス) id: fcfa2aebad (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!あとコーヒーの方のまふぃくんさお殿お話も!(´;ω;`) (2019年12月5日 20時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり(プロフ) - ともさん» コメントありがとうございます!すごく嬉しいです…。この作品は、キーワード(「喫茶店」など)を交換しお話を書く、という一風変わったコラボになっております。実はあと2作品分のキーワードを頂いていて、現在執筆中です!気長に待っていただければ幸いです! (2019年10月26日 23時) (レス) id: a6d1b02f5a (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 好きです!続き待ってます! (2019年10月24日 20時) (レス) id: 25fb5b2d6d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かのこゆり | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kanokoyuri/
作成日時:2019年10月3日 23時