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反射的に目を開ける。
目の前の光景が、目から脳に伝達された瞬間、
私は思わず声を張り上げていた。
「何してるんですか!! やめてください!」
周りの乗客たちが、驚いた目で私を見る。
そりゃそうだ、あんな荒っぽくて興奮した若者に関わったが最後、何をされるか分からないんだから。
勢いよくドアに打ち付けられて、その綺麗な顔を苦しげに歪めていたあの子も、まんまるな瞳で私を見つめている。
ああ、その澄んだ瞳で見つめられるの、初めてだ。
衝撃で落ちた眼鏡を踏みつけて、けほけほと咳をするあの子を見下していた若者が、私を視界にとらえる。
私があの子に駆け寄ろうとしたとき、聞き慣れたアナウンスが耳を刺して、電車がブレーキをかけ始めた。
つり革につかまらず、自分の力だけで立っていた彼らは、急にかかった力に抗えず、倒れそうになってしまう。
その一方、私はどうにかバランスをとりながら、少しずつ彼らの元へ近づく。
こちとら、伊達に毎日満員電車乗ってるわけじゃないんだよね。
乗客が距離をとっていたおかげで少し空いたスペースに、とうとう、リーダー格の若者がバランスを崩して転がった。ざまあみろ。
周りの乗客が、さらに離れる。
電車がタイミングよくホームに滑り込んで、アナウンスが、ちょうどあの子がもたれかかっている側のドアが開くことを告げた。
床に放り出された参考書と、踏みつけられて曲がった眼鏡を拾って、
「っえ、あの、」
困惑するあの子の腕をつかんで、すばやく起き上がらせる。
軽快な音を立てて開いたドアに身体をねじこんで、ようやく立ち上がった若者たちが腕をつかむ前に、外の世界へ腕を引っ張る。
「とりあえずついてきて!」
何事だ、と呆然としている人の波をすり抜けて、とにかく遠くへ走る。
階段を駆け下りて、とにかく全力で逃げた。
「ここまで来れば大丈夫でしょ…。」
人であふれかえった改札前まで来て、私はやっとつかんでいた腕を放した。
持っていた参考書と眼鏡を手渡す。
「突然腕引っ張ってごめんね…。」
ゆっくり振り向いて、上がる息をどうにか抑えて謝ると、彼はぶんぶんと首を振った。
「いえ、本当にありがとうございました!」
ぺこりと下げられた頭は、まだぐちゃぐちゃのまま。
「あの、僕のせいで、関係ないお姉さんまで巻き込んでしまって、」
そう言いながら顔を上げた彼は、そこで動きを止めた。
「……もしかして、Aねえさん?」
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ちょこ - かのこゆりさん» いえいえ、おかえりなさいです!コーヒーのお話、切なくてよかったです!また、コーヒーの違ったエンドや、コーヒーのまふくんsideも欲しいです! (2020年9月19日 10時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり(プロフ) - ちょこさん» コメントありがとうございます!返信遅くなってしまいすみません。実は受験生でして、受験勉強に集中するため活動休止していました。無事合格通知が届いたので、まもなく執筆再開予定です!気長に待っていただけると幸いです〜! (2019年12月25日 11時) (レス) id: fcfa2aebad (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!あとコーヒーの方のまふぃくんさお殿お話も!(´;ω;`) (2019年12月5日 20時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり(プロフ) - ともさん» コメントありがとうございます!すごく嬉しいです…。この作品は、キーワード(「喫茶店」など)を交換しお話を書く、という一風変わったコラボになっております。実はあと2作品分のキーワードを頂いていて、現在執筆中です!気長に待っていただければ幸いです! (2019年10月26日 23時) (レス) id: a6d1b02f5a (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 好きです!続き待ってます! (2019年10月24日 20時) (レス) id: 25fb5b2d6d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かのこゆり | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kanokoyuri/
作成日時:2019年10月3日 23時