9-宿泊先は ページ10
ホテルの予約をし忘れていることに気が付いた後の対応は早かった。
『ごめんなさいデンジさん、今日のお礼は後日必ずします。今日は失礼します!』
高速で彼に頭を下げて、振り向き様に街の中心部へ駆け出す。
今から走ってどこか適当なカプセルホテルに予約…予約ですらないけど、間に合うだろうか?
「_____!」
あぁ、本当はナギサシティの近代的な街並みを楽しみながら、余裕を持って夕飯なり観光なりを楽しもうと思っていたのに。
「____…い、」
あの非常識な連中、末代まで恨んでやるっ
______「A!」
後ろから、低く抑え込まれた声が私を制止しようと呼び掛けていた。瞬間、右の手首を掴まれて、驚いた私は走らせていた足を止めた。慌てて後ろを向くと彼…デンジさんが肩で息をしていて。
『あ、え…?デンジさん?』
「勘弁してくれ…私生活の関係上体力無いんだ、俺は」
何事かを小さく呟いた後、彼は…私もだが、腰に手を当てて呼吸を整え、再度話を切り出す。
「深夜って程じゃないが、もう十分遅い時間だ。今から客室を用意できるホテルは少ないと思うぞ」
『で、でも…宿を回って行けばもしかしたら…』
「この街の宿泊施設を一つ一つ回ってる時間こそ無いだろ」
正論で、思わず黙り込んでしまう。海から吹く空風の冷たいこの街で野宿なんてした暁には、凍死待った無しだというのに、一体どうしたら…。
「…内の施設で良ければ貸すけど、来る?」
デンジさんは私の手首を放して、その手を気まずそうに自身の首に添える。
『し、せつ?』
「大したものはないけど、寝床とシャワーと…まぁ一晩過ごせるくらいの設備は整ってる。君にホテルの他に知人の家なり、宿泊の宛があるなら別だが」
『そこまでお世話になるのは…』
流石に気が引ける…けど…
______"宿泊の宛があるなら別だが"
…
『お金は…お支払するのでお願いします…』
助けて貰った挙げ句、他人様にこんなご迷惑を…。消え入りそうなくらい小さな声で、私はデンジさんに深々と頼み込む。
けれど彼は全く気にしていない素振りで、私が了承するや否や踵を返した。それでも背中を丸めて小さく項垂れる私の頬を、デンジさんの手がぺちんと、全く痛くない強さで叩き、見上げる。
「気にすることじゃない。大体、宿が無いのだって、大方あの集団に足止め食らってたからだろ?
俺はまぁ…曲がりなりにも一度君を助けたんだ。最後まで面倒見るさ」
彼はやっぱりどこか気怠げな顔で、私が駆けて来た道を親指で指した。
「じゃ、来た道戻ろうか」
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作者名:Dac | 作成日時:2022年3月15日 20時