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そんな婚約騒動からも1年。
中学三年生の冬。
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受験を間近に備えたAさんは今にも死にそうな顔をして立っていた。
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「…いつも以上に変な顔してますけど、大丈夫ですか」
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ここは、屋敷の中庭。
行き詰まっているような彼女を気遣い散歩に誘ったのだが、変な数字を唱えてばっかりで話しかけても返事がない。
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仕方がないので、ため息を1つ吐き、彼女の両頬を引っ張る。
手袋はしているので冷たくはないはずだけど、これで流石に意識は戻ってくるだろう。
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「きいてます?」
『!? ひゃいっ!』
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ジト目で睨んでいると、焦っているのか彼女の額に冷や汗が滲む。
……あからさまに目もそらされて視線も合わない。
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なんだか面白くなくなってきて手を外す。
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『……私、このままだと落ちるかもしれないです』
「別にいいじゃないですか。学力の差があるところに入っても辛いだけですよ」
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少し間を開けてから話し出す。
落ち込んだ様子だったので励ましたが、励ましてくると思ってなかったのか驚いた顔をされる。
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「四六時中一緒にいてもstressが溜まるだけですし」
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つい口をついて出てしまった言葉にAさんは怒った顔をしてくる。
……本当にこの口は、ろくな言葉がでてこない。
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しかし、彼女と同じ学校に通わなくても良いと思っていたのは本当だった。
どうせ、アイドル科ではなく普通科に入ることになる。
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そうなると、同じ学校とはいえ様子がみれなくなるだろう。
Aさん自身はあまり気づいていないが、彼女は結構可愛い。
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今までは私と常に行動してたから男が寄ってこなかったが、今度はきっとそうはいかない。
彼女に寄ってくる男たちを想像して眉間に皺がよる。
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……そうなるくらいなら近くにある女子校に通ってもらった方が都合がいい。
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なんて、こんな卑怯なことを考えてること、未だに怒ったようにこちらをみているAさんは知りもしないだろう。
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……別に今は、それでいい。
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『なんですか急に…意地悪言ったり笑ったり…今日の坊っちゃまちょっとおかしいです』
「なんでもないです。それより寒いので部屋に戻りましょう」
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……その後、本当に受験に落ちたAさんが別の公立高校に行き焦ることをこのときは知らなかった。
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