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「……そんな事ない」
確かに俺達はバルセロナ・オーブに手も足も出なかった。
Aだけじゃない、恐らくチーム全員が思っていた。……自分たちの実力は世界に通ずるものだと。
「お前は相手からボールを奪えていたじゃないか」
後半戦。
円堂の言葉に皆がやる気を取り戻すも、その実力さに段々と削られる体力に戦意を失うのは時間の問題だった。
Aは息を乱しながらもフィールド中を駆け回っていた。
その時、必殺技でAはボールを奪う事に成功したのだ。
その必殺技は『ザ・ブラスト』。本人が言うには、自分が一度サッカーを手放したきっかけを作った必殺技だったという。それでも一瞬の輝きの中、確かにAはボールを奪っていた。
「たった1回じゃないですか！！ 1回じゃダメなんです……、1回じゃ……っ」
俺の服を握り揺さぶるA。
叫んでいた声は段々と弱々しくなり、Aはずるずるとその場に崩れ落ちた。
抑えるように泣くAの視線に合わせる様に、俺は膝をついて屈んだ。泣き崩れたAの頭に手を添え、指通りの良い髪を通しながら頭を撫でた。
「うっ……、ひぐ……っ」
「……お前は頑張っていた。気持ちは負けてなかった」
「豪炎寺さん……っ」
俺の名前を口にした瞬間、Aは飛びついてきたと思えば大声で泣き出した。
……会場や悠さんと通話中の時は我慢していたんだろう。
「世界レベルを知る事ができた。それだけでも前進したと思わないか」
「……うん」
「これからどうすればいいのか。お前ならもう分かっているだろ」
「……つよく、なる。世界に届くくらいに……、つよく……！」
「ああ。頑張ろうな」
あの後、暗い中Aを1人で帰らせる訳にもいかず、家まで送った。その後、自分の家へと帰路を辿った。
帰り道、Aはずっと黙っていた。偶に鼻を啜る音が聞こえたので、まだ泣いていたんだろう。
俺がサッカーを志すきっかけになったA。
自分のサッカーを恐れられ、怖がられ……そんな中、雷門中のサッカーを見てサッカーに対する意欲を取り戻した。
そんな彼女とサッカーが出来る事がなりよりも楽しかった。
これからもずっとサッカーができるものだと思っていた。……思っていたんだ。
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作者名：恵野 | 作成日時：2021年6月6日 0時
