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試合開始のホイッスルが鳴り響いた。
キックオフは帝国学園からだ。
「……おや？」
帝国学園の動きが鈍い。
調子が悪いのか……と思ったが、実況の言葉を聞いて足下を見てみる。
「……へぇ、なるほどね」
帝国のメンバーが履いているスパイクを見て理解した。
影山監督が何を考えているのかも。
「雷門、調子良いのかな」
「調子が良いのかもしれないね」
「じゃあ帝国は？」
「調子が悪いのかもしれないね」
「……」
僕の生返事にAは少し不満そうだ。
答えを教えるだけでは意味がない。それに、本来の彼女なら答えを求めるだけじゃないはずだ。
光は先の見えない道を照らす存在。天使は神からのお告げを元に人を導く存在だという。
その両方を兼ね備える彼女はMFとして、司令塔としても実力があるという。実際に去年の秋に開催されたFFでは、Aによるゲームメイクで構成された試合がある。
今の彼女はただ命令を待つだけの機械だ。以前の面影は残っていない。
「“ファイヤートルネード”！」
1-0
帝国は雷門からボールを奪う事が出来ず、そのまま先取点を奪われてしまった。
やっぱり”ファイヤートルネード”に反応しないのか。そう思いながらも先程の会話の続きをしようと口を開いた。
「仕方ないなぁ。じゃあヒントをあげよう」
「ヒント」
「うん。Aはゲーム好きかい？」
「ゲーム……やったことない」
「そっか。じゃあゲームをやったことがないAにはイージーモードから始めた方が良いかもしれないね」
帝国のキックオフで試合再開。
「……どうやら気づいたみたいだね」
帝国はスパイクの仕組みに気づいたようだ。
しかし、未だにスピードは遅い為、ボールは奪いやすい。
「また取られちゃったよ？」
「そうだね」
「帝国学園は強豪校だってデータにあったけど、本当なの？」
「間違いないよ。今はその実力を抑えているだけさ」
まぁ、本人達はそんなこと思っていないんだろうけど。
「雷門、がら空きだよ」
「帝国の動きが鈍いから、守る意味がないと思ったんだろうね」
「……なるほど」
観客席から見たフィールドは、雷門のゴール前はほぼがら空きだった。
今帝国からカウンターを仕掛けられれば、間違いなく点を奪われるだろう。
しかし、それは帝国の狙いではない。
帝国が……正確には影山監督が狙っているのは別の部分だ。
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作者名：恵野 | 作成日時：2021年6月6日 0時
