小さなよもやさん

こぼれ話〜とある男の話〜 ページ33

両親を亡くし、結婚をしていない俺は彼女に気に入られたらしい。

いや好かれているようだ。

俺は鈍感じゃないからさすがに彼女のわかりやすい好意に気付いている。

だが、応えることはできない。

俺はもう三十になるおじさん。対する彼女対するはまだもうすぐ二十になる若い女の子。

どれだけ好意を示されても応えるわけにはいかない。

そう思っていたのに...







彼女は任務で大怪我をした。

もう鬼殺隊としていることができなくなった。

彼女は、いつもの時間帯に現れそう笑って話した。

その時俺は何かを言った。もう何を言ったか忘れたが。

そしたら彼女は泣いた。初めて泣いた。

子供のように泣いた。



身寄りのない彼女を店の看板娘として置いていた。

儚げな雰囲気を纏う、庇護欲をそそらされる可愛らしい彼女に会いに客が、男の客がよく来た。

なんだか複雑な気持ちだった。




彼女と結婚することになった。

結局俺は彼女の気持ちに負けてしまったのだ。

自分の意志の弱さに頭を抱えてしまう。確かに年齢差結婚は珍しくないが！

そんな俺をよそに、幸せそうに隣で微笑む彼女を見ていたら、まぁ、いっかなんて思てしまう。

その後、俺と妻の間に子ができた。可愛い女の子だった。

幸せだった。

本当に。

諦めていた幸せを妻と出会って知った。




だが、愛する人を失う辛さも知った。



娘、Aが十になる前に風邪をこじらせてしまい、そのままこの世を去った。

残ったのは、妻が美味しいと笑った自分の料理と、妻と一緒に過ごした店と、愛おしい娘。







藤の花を入れ替えていた。

自分も娘にも思い出深い花となってしまった紫の花。

見た目は妻の儚げな雰囲気を薄めたような娘は、自分と同じく愛する人を失い、若いころの妻に激似してしまった。

自分に似たのは、性格だと思っていたが、こんなところまで似てしまうとは...。



鬼殺隊所属と分かり、娘に気があることが分かった時点で引き離せばよかっただろうか。

いや、彼みたいなタイプは何としてでも会いに来そうだ。

実際骨となっても会いに来たくらいなんだから。


「お父さん。私、謝ることがあるの」

「...なんだ？A」


本当は聞かなくてもわかる。きっとAはかつて自分が両親に謝ったことを言うだろう。


『孫を見せられなくて』
「孫をみせることができない」

『「ごめんなさい」』


あぁ、、、娘はやはり自分に似ている。


「いいよ。謝らなくて。」

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