その参 ページ4
彼が鬼殺隊の一員であると知ったのはそれから少し後。
ここの人たちは大体知っていたらしい。私を引き取ってくれていた女性も彼の知り合いだという。
彼は私に言った。「もし鬼殺隊に入りたいなら、技術を教えよう」と。
鬼を殺す。あの日私から様々なものを奪った奴らを滅ぼす。復讐の炎に身を焼かれる人生。
なんだかピンとこなかった。両親のことを愛していたし、惜しみのない愛情を私に向けてくれた。
でも、鬼を殺す人生を生きるのは少し抵抗があった。だって、少しだけ怖かったから。
「鬼が怖くないのですか」と聞いた。彼は一瞬だけ考える仕草をした後、
「怖くないよ。俺にとって、彼らも哀れな生き物だからなあ」といつもの笑顔で笑った。
鬼が怖くないらしい。でもこの人、恐怖心なんてあるのかな。
「別に殺すしかないって訳でもないよ。鬼と人は仲良くせねば」
まるで理想論のようなことを語る彼。「本当はそう思ってないですよね」とつい口から出てしまった。一瞬の沈黙。
「うーん、どうかな。でも、俺は鬼殺は救済だと思っているよ」
救済。彼が幾度も口にしてきた人間向けの言葉。
「これ以上彼らは罪を重ねなくてもいいからね。心を通じ合わせれば、極楽浄土への道は開けるさ」
信者に聞かせれば泣いて褒めたたえるだろう。百点満点の聖人回答だ。
「もし興味があったなら今夜一緒に鬼殺に行こうか」
彼は私の手をぎゅっと握ってくれた。当時の私はまだ幼い少女だと言うのに。
「まぁ見学みたいなものだよ。これでも一応、柱って呼ばれるすごい人だからね」
「見学、なら」
この人が傍にいるなら死ねないし死なないような気がしてきた。
両親を殺した鬼。それが憎く感じないのは、自分がよくない人間だからだと思う。
でも両親のように殺される人がででくるのは哀れだと思う。だから守るために鬼を殺せばいいのだろうか。
「では、よろしくお願いします、教祖様」重い声が出た。今だって鬼は少し怖い。
「あ、その教祖っていうのやめてやめて。鬼殺隊では別の名前で呼ばれているから」
そっと耳元に口を近づけられ、彼の名前を教えてもらった。
「俺の名前は童磨」
氷柱だよ、とクスリと笑う声。なんだか少しいけないことをしているような気がする。
童磨という名前がゆっくりと、自分に馴染んでいく。
この日、私たちは信者と教祖の関係だけじゃなくなってしまったのである。
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nerine(プロフ) - すごく面白いです!少し詰まっているので、所々改行したらもっと読みやすいかなぁと思います。 (2020年1月18日 4時) (レス) id: b9ed9857b8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふぃしゅあ | 作成日時:2019年10月21日 22時