8話 ページ8
……どうしてこうなってしまったんだろう?
気づけば建物が茜色に染まる夕暮れ時、人目を避けるルートの道をAさんと二人きりで歩いていた。
確か日和くん、あの後急にこの後ジュンとの予定があったとかでいなくなっちゃったんだ…
「日和くんは、初めて話したけどなんだか面白い人だったね」
私が考え事をしていると、口を開いたのは彼女だった。
「……日和くんはお喋りが上手だから、……私は少し口下手だけど」
「そんな事ないよ?」
「凪砂くんが話さない時はいつも何か考え事をしているのかな?って思ったり」とAさん。
自分では意識していなかったけれど、普段からそうなのか、それとも彼女は今の私の現状に対して言ったのだろうか…なんにせよ、今、不意に図星をつかれてしまった事には間違いなく、少し私も驚いてしまった。
「……Aさんにはなんでもお見通しなのかな?」
「そ、そんなことないよ!ただそう思っただけでそれだけの事だよ!」
と、少し慌てた様子を見せるAさん。
そんな他愛のない会話をしている時、白い何かが目の前にチラチラとよぎる。
「……雪」
「お、初雪だね?」
「今朝すごく冷え込んでたからそろそろかなとは思ってたけど」とAさんの言う通り、ここ最近の気温はかなり冷え込んでいた。
昼と夜の温度差は別格で夕方になると一気に冷え込む傾向にあった。雪という視覚的情報も加わり、その寒さに少し私は身震いをした。
「凪砂くん、ずっとポニーテールで首元寒くないの?」
「……え?」
「そんな事はないよ」それを発する前に自身の首元が何かに包まれる。
「よかったら使って!アイドルが風邪でも引いたら大変だしね、首元もちゃんと暖かくしないと!」
気づけば先程彼女が巻いていたマフラーが自分の首に巻かれていた。
「……暖かい」
「ならよかった!」
彼女が身につけていたからだろうか、その残った温もりが私にも伝わってくる。
ただそれ以上に自分の心が満たされているようなそんな感覚に襲われた。けれどその頃の私はその正体がなんなのかわからなかった。
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作者名:さくらだ | 作成日時:2021年11月14日 11時