食べた事の無い味 ページ16
ある程度、自分一人で
生きていけるようになった時。
初めて私は自分で部屋を借りて暮らしだした。
それでも私の命は私を買った者の所有物であり、
私は道具としての生活を続けていた。
仕事で呼ばれれば、仕事をする。
仕事を終え、部屋に戻って寝るだけの生活は
楽しくも無ければ寂しくも無かった。
「・・・・。」
『・・・・。』
昔の事を思い出していると、私の前に血に濡れた
自分が現れた。
血濡れの私は無表情で、私に向かって拳銃を構える。
私も同じように拳銃を構えた。
ズガンっ！ズガンッ！
暗い空間に拳銃の音が鳴り響く。
血濡れの私が拳銃を撃った。
私は弾を避ける。
「・・・。」
しかし、私は撃たなかった。
『っ・・・・・。』
血濡れの私は、静かに涙を流していた。
私は・・・
誰からも愛してもらえない。
母は私を醜いと罵り、暴力を振るった。
こんな私は、誰からも愛してもらえないのだと
母親に売られた時に思い知らされた。
私に近づいて来る男は皆、道具の私が欲しいだけ。
使い捨てで、便利な私が死んでしまっても・・・。
誰も悲しまない。
そもそも、よく考えて見れば・・・
「愛」とは、何なのか。
食べた事の無い物の味を知る事が出来ないように、
私に与えられた事の無い愛情と言う感情は
知るすべが無かった。
そんな中で。
母は常に男からの愛情に飢えていた。
飢えて、渇いて、強く求めていた。
常に綺麗であろうとした。
美しくあろうとした。
そんな母を見て。
母は愛情によって、狂ってしまったのだと思った。
「・・・・・。」
だったら・・・
私は愛情なんていらない。
愛されたくない。
私はただ、生きて居られる場所があればいい。
道具として誰かに必要とされて生きていければ
・・・・それでいい。
『・・・・。』
ズガンッズガンッズガンッ！！
「っ・・・。」
血濡れの私が打った弾は私の右肩と左足、
そして左わき腹を貫通した。
撃たれた反動で後ろに倒れそうになるのを
私は右足でなんとか支える。
傷口からは真っ赤な血がドクドクと流れる。
その瞬間、
場面は一転して、私の周りには武器を構えた
男達が現れた。
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作者名：猫のこたつ | 作成日時：2019年7月30日 10時
