終天に巡り逢うⅣ (ページ9)

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あなたに出会わなけらば、私はずっと孤独だったろう。
瑚月の想いも護りも知らぬまま、ただ世界を拒絶して、独りきりを選んで。
彼方の世界から《私》を奪った世界を恨み、神を恨んで。誰かの温もりも愛情も知らぬまま。
生まれてよかったと感じられぬまま。生きていてよかったと思えぬまま。

『…ウルド様、』

名前を口にするだけで、こんなにも胸が締め付けられる。切なさと、愛おしさが胸を支配する。

『…私に出逢ってくれて、ありがとうございます。私を見てくれて、愛してくれて…ありがとう、ございます』

「礼を言われることではない。俺が、おまえと共に居たいと思ったんだ」

そっと頬に触れてきて、ゆっくりとそこを撫でると顔を近づけてくる。それに瞳を伏せたと同時に唇に触れる、感触。
血の味を感じさせるそのキスは、なんだかとても吸血鬼らしくて。
その口づけは、とても優しくて愛おしくて。触れたところが熱を宿す。
優しい掌が私の髪を梳きながら、後頭部に回った。
長い口づけにくらくらとする。でも、もちろん嫌じゃなくて。むしろもっとと思う。

『っん…は…』

離れた唇。酸欠からウルド様にもたれかかると抱き締められて、つむじにキスを落とされた。

「…辛いのならそれを吐き出していいぞ」

『…いいえ。私は瑚月の願いを知ったから。想いを知ったから…彼がそばに居ない寂しさはあるけど、でも辛くはありません。…その、…ウルド様が居てくれるから』

「そうか」

と言ってウルド様は少し体を離し私を見下ろす。

「おまえが俺を選んだことを、俺は絶対に後悔させない。どんな時でもAのそばにいるし、寄り添う。おまえを遺していかないし、否定もしない。俺は、Aの全てを受け入れる。どんなAでも受け入れる」

『…』

「だから自分を押し殺す必要はない。ありのままのAでいいし、ありのままのAを知りたい」

『っ』

ああ、この人はお見通しなんだ。

『ほんとうは、』

「…」

『苦しい』

「…あぁ」

『《私》を知る人はもう、居なくて。《私》が存在していた証は、もう、なくて』

「…」

『ぜんぶ、なくなっちゃった』

喪失感が私を襲う。最後の一つもいなくなってしまって。これでもう、《私》は完全に消えた。残ったのは《物語》だけ。そんなものはどうでもいいのに。

「…」

何も言わずウルド様は私を抱き締める。言葉ではなく行動で示すその優しさが身体に染み渡って。
瞳を閉じて、ただ彼に縋り付いた。