終天に巡り逢うⅣ (ページ50)

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番外編１６ページ50

夜の帳が下りたそこに、ひとつの朱い鳥居がぽつんと佇んでいる。
その下に、一人の美しいヒトがいた。
ソレは穢れを知らぬかのような真白の髪に、月白色の蠱惑的な瞳を持ち、白を基調とした狩衣に身を包んでいる。

「…」

その中性的なヒトは、口元に笑みを浮かべる。

「…ああ。よきことだ」

全てを見透かすような瞳が細められ、高くも低くもない、だが涼やかな声で紡がれた言葉のその内には温もりが感じられた。

「漸くか…漸く…」

何かを噛み締めるように、それは呟く。

「A」

夜空に星が降り注ぐ、果ての地でそのヒトは＿＿＿＿瑚月は微笑む。

「臆するな。恐るな。それはきっと、そなたを…」

嫋やかなその声が夜空に響く。

「さぁ、A。

《そなた》の物語を紡ぐ時だ」

世界の人柱となった哀れな人の子。

逃げられるはずのなかった、世界という檻の中に入れられていたあの子は、もう、

＿＿＿＿自由だ。

「そなたの、そなただけの生だ。己の願いのために動け」

欲を持て。

欲しろ。

奪え。

今まで我慢してきた分…諦めてきた分、そなたにはそれを願い、獲る資格がある。

「なぁ、A」

人を恐れ、人を遠ざけ、でも、人に焦がれた。
自分は異物だからと。自分は本来存在しないはずだからと他人と距離を置いて、諦めて。
でも本当は誰かに認めてほしくて。
孤独の檻の中からずっと、手を伸ばしていた。

それを彼女の家族は気付いてやれなかったが。

だが。

「そなたの大事な者たちを、手放すでないぞ」

あのヒトならざる者たちがAを囲う檻を壊して、手を掴んで救い出した。
その手を強く握って、放すな。

まぁ、あちらもそのつもりはないだろうが。

くつり、と笑うと瑚月は夜空に浮かぶ大きな月を見上げる。

「幾星霜の日々を越えて、俺は漸く光を得た。最期の最後で、たった一人に出逢えた。この終天の世界で、そなたに出逢えたことは、共に生きたことは、家族になったことは…俺の最たる倖せであったよ…A」

だからこそAには倖せになって欲しい。どんな存在であろうとも、AがAであることは変わらないのだ。
ただ、ただ、あの子の倖せを希う。

「故に、俺から《呪い》を与えようぞ、A」

そう、これは《呪い》だ。彼女を想うが故に、愛情などと安っぽいものとは違うアイ。

じわり、とソレは侵食していく。

「生きよA。そなたの愛する者と共に、その生を」

そう微笑み、消えた。