終天に巡り逢うⅣ (ページ49)

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番外編１５ページ49

「あ」

『…？』

そうだ。危ない危ない。忘れるところだった。
不思議そうな顔で自身を見上げてくるAにニコリと笑む。

「______誕生日、おめでとう。A」

『！』

その言葉に、Aは大きく瞳を見開く。

『…誕生日、？』

「もしかして忘れてたの？もう日付が変わったでしょう？」

『…、』

ハッとしたAは何かを言おうとして、だが、きゅ、と唇を噛み締める。

「…信じるかは君次第だけど…少なくとも僕は、君に逢えて良かったと思ってるよ」

『っ』

くしゃりと泣きそうに顔を歪めたAは、ふるり、と身体を震わせた。
泣くのを堪えているような彼女の小さな身体を抱き締めると、大袈裟なまでにビクリと身体を揺らす。

「だから、」

『…』

「_______泣いていいよ」

『っ』

我ながらガラではないと思う。こんな風に誰かを慰めるなんて。こんな、ただ少し強いだけの、ただ少し自分の細胞を受け継いでいるだけの、ただの強がりな人間の子供を。

『、っ…』

彼女は自分の生が認められたことを認められない。
彼女は自分を認めていない。
彼女は自分のことを、要らないものだと認識している。
たった十二歳の子供が、自分の存在を否定しているのだ。
でも、

「僕は、ちゃんと君を見てるよ」

一呼吸置いて胸元が濡れる。本当に、小さな嗚咽が鼓膜に響く。
まだ幼い子供が声を押し殺して泣いているのだ。そうしなければならないほどに、彼女は自分を殺し続けなければならない環境にいる。
それはなんて、

「、」

ああ…らしくない。
感情などとうになくなったはずなのに。こんな子供を慰めたり、抱き締めたりする心はもう、なくなったのに。
なのに僕はどうして彼女を気にかけるんだろうか。

『…っ、』

ぐすぐすになった顔を上げたA。
きらきらと涙に濡れて輝く藤の瞳が瞬くと、透明の雫がこぼれ落ちる。

「A」

それを拭って、微笑む。

「もう一度言うね」

『、』

「誕生日おめでとうA。…僕は、君に出逢えて良かったよ」

でも。
それでも、いつか僕は君を見殺しにするのだろう。
その日が来たら…世界が崩壊するクリスマスのその日が来たのなら。
計画の外にいるこの人の子は、僕の細胞を受け継いでいたとしてもこの子は。

______簡単に、死んでしまうのだ。

『…』

だがそれも理解しているかのように、それでもAは初めて僕に向けて…控えめながらも偽りのないの笑顔で、美しく笑った。