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尾崎「…だからか」
振り返った紅葉は、私の目元を親指で撫でるなり、
『隈が今までより断然に濃くなっておる』と口にした。そのことに関しては、
自分でもわかっていて、鏡を見る度に頭を抱える程だ。
日に日に増していく隈は、解消されることはない。
この世界は、私にとって騒音すぎる。
尾崎「その男は誰だ。
A「無理だよ、紅葉」
物騒なことを云う紅葉に首を横に振れば、『どうしてじゃ』と静かに彼女は呟いた。
尾崎「苦しい思いをすることもなかろう。幾ら同い年とはいえ、
遠慮するでない。苦しい顔をしていれば、中也もきっと」
A「遠慮をしている訳じゃないんだって…」
気付いた時には、彼の手によって口元を抑えられた。
ひんやりとした手。"これ以上、何も言うな"とでも云うかのような行動。
頬を伝った水は、絨毯へと染み渡る。何度も慣れない現実に、嫌気がさしてしょうがない。
死んでほしくなかった。
まだ、一緒に居てほしかった。心地が良かったから。
優しい心音が私を安心させてくれたから。
…ねぇ、何で頼ってくれなかったの。
助けてくれたアンタに、私も何かを返したかった。
いつも私はもらってばかりだ。
何を言っても変わらない。
この現実だけは、いつまでも永遠に慣れることはない。
生き返る訳もない。
尾崎「………これでは、中也に顔向けできんのう」
紅葉は、私の腰に手を添えるなり、行くべき方向へと誘った。
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作者名:松城美樹 | 作成日時:2022年5月29日 22時