「ずーっと。」 ページ3
そんなどんよりした気分の中レースは始まる。
パンっ!という大きな音と砂を蹴る力強い足音で学校の興奮はさらに高まる。
さとみくんと柏木さんが一緒に走っていくのを見たくなくて、人の影に隠れる。
でも、やっぱり気になってしまって、顔をひょこっとだす。
すると、他の人達はさっそくお相手を見つけて走り出そうとしているのにさとみくんだけキョロキョロしていた。
柏木さんは
「さとみー?どうしたの?」
と叫んでいる。
そんな中、彼と目が合ってしまって、急いで顔を引っ込める。
ずっと見ている変態とか思われたらどうしよう…
そんな嫌な考えが頭の中をぐるぐる駆け回る。
不意にAちゃん、という声が聞こえた。
間違えるわけない、あの声。
ずっと恋焦がれてた、あの声。
大好きな、あの声。
「さとみ…くん。」
「探したよ。ほら、早く。」
持ち前の俺様王子様感を醸し出しながら私の手を引っ張る。
私の頭は情報を瞬時に理解できるほど賢くないので、困惑しかない。
え、どゆこと…?なんで?
「うぇ、ぇ」
意味は無いただの音を私の口が発する。
「あぁ…もう。」
はぁ、とわざとらしくため息をついて私の背中と足に手を回す。
ひょいっと効果音がつくほど軽く私を持ち上げるとものすごい速さで走り出す。
私の周りは、言うならば絶句。
みんな驚きすぎて声すら出ていない。
「待っ、待って…さとみくんっ!わっ」
「うるさい。舌噛むよ」
周りの景色はどんどんすすんで、1人、2人、3人と抜いていきとうとう1位でゴールした。
めちゃめちゃはやく走っていたのに、息すら上がってない。
みんなゴールして、急に周りの音が無くなる。
しん、とした静寂。
「大好きでした、ずーっと、」
「大好きです。ずーっと。」
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作者名:凛月 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/n15a76543b1
作成日時:2023年7月5日 21時