第五十二話 ページ2
夏目side
翌日。Aは目を覚ました。少し元気がないものの。すぐに回復していった。
Aに、“あのときは守ってくれて、ありがとう”って、言えば、Aは少し驚いたような顔をして、同じように、ありがとうが帰ってきた。
目まぐるしい日々だったけど、ようやく元に戻れる。
安らかで静かな、それでいて楽しい日々に
そう、思っていた。
なのに。
夏「何してるんだ?A」
「へ?あぁ、これ?……またあとで話すね」
お風呂から出たあと、二階に上がると、部屋で一人、黙々と、服や勉強道具を大きな鞄に詰め込んでいた。
少し困ったように笑ったA
「あ、でもこれから話すから、夏目も、一階に降りて、聞いてくれる?」
夏「?分かった」
おれは、何の疑うこともなく__
「__これまで、本当に、ありがとうございました__」
おれは、その話に、全くもってついていけない。Aの話が、頭にはいってこないんだ
そんな話。聞いたことがない
「__塔子さんや、滋さんや、夏目と一緒に過ごせた毎日は、私の、宝モノなんです__」
泣きそうな顔
「__絶対に、良くしてくださった恩を、返しに来ます。必ず__」
Aの、強い思いを見せられた。彼女の言葉は、どれも力強かった。言葉に、力がこもっていた。
でも、おれはこんな話、Aから聞いてない。なのに、塔子さんや、滋さんは、知っている様子で……
塔「Aちゃん……元気でね。っ…」
涙ぐむ塔子さんの背中を、そっと優しくさすりながら、滋さんも言葉を漏らす。
いつのまにか、風景はリビングから玄関の前に変わっていて、あの大きな鞄を持ったAと、その後ろに、黒い車。
滋「いつでも、ここが我が家だと思って、帰ってきなさい」
その言葉に、頷くA。
待ってくれ。おれはまだ何も
何もいってないんだよ
すると今度はAがおれの前に来て、手を握った。
「夏目には、言ってなかったよね……ごめん。……じゃあね」
学校だって同じ。友達であることも変わらない。なのに、ひどく寂しく、心が痛む
おれは、止めなかった。いや、止めようと思っても、できなかった。
体が、思うように動かなかったからだ
これは、彼女が選んだことで、もともと、居候って形だったんだから。いつか、でていくのは当たり前で、それは最初から分かっていたことで。
彼女の人生に、おれは何も言えない。だって、ただの友達なんだから。親でも家族でもない。
あっさり、おれはAの手を離した。
きっともう、Aに手は届かない。
その日、Aは藤原家を、出ていった
60人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:穴 | 作成日時:2020年8月25日 19時