16 - 4 人形の泪 ページ26
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居心地の悪い沈黙。
時折、ぽんとフラスコが音を立てる。
鮮やかな緑の液体が入ったフラスコはテーブルの上。
不意に、沈黙を破るように夏目は突如振り向いた。
「Knightsも返礼祭するんでショ?」
繰り返して、分かりきっていること。
『話題を間違えた』と渋い顔の夏目に、
Aは首をかしげて戸惑いながら答える。
「…うん
新体制で挑む最初のライブであり
このメンバーで挑む最後のライブでもあるから」
繰り返したって変わらない景色や行事があるように
繰り返したって変わらない心もある。
夏目もAも、それはよく分かっていた。
「…姉さんの望みはもウ、叶ったノ?」
また急に、静かになる。
Aの中に、後悔も望みも、無いようで、
でも実は、数えきれないくらいいっぱいあった。
過去のおれに出来なかったこと。
今もずっと、それこそ後悔しているだろうこと。
「…私、また繰り返しちゃうのかな」
小さな呟きが、ぽつりと消えた。
フラスコから産み出される煙のように。
行き場をなくして、空気に溶ける。
夏目はどんな気持ちで聞いているんだろうか。
フラスコに落ちたその瞳の奥に秘めたものは何?
その想いの深さを考えてみたら
それだけで、軽く一曲描けてしまいそうだった。
「…ボクの罪は重いヨ
毎日必死で背負っているのサ
にいさん達だっテ、みんなそウ」
何度目かの、噛み合わない会話。
また、Aはしかめっ面で。
「夏目、話がブレすぎて少しわかんない
…要は、何が言いたいの?」
背を向けるどころか、目すら合わせない夏目。
床の魔法陣に視線を落としたA。
「……そういう性格じゃないんだけどナ
…わかってるでショ
こんな形でモ、”ずっと”一緒にいたんだかラ」
ため息を吐いて、フラスコから手を離さないまま地面に置いて。
凄く小さな、本当に小さな声で。
「…姉さんに苦しんで欲しくなイ」
本当に短い本音。
顔を背けて、背まで向けて。
面と向かってないのに。
きょとんとしたAの頬を涙は伝う。
本当に一瞬。
鼻を啜る音で、もうひとつきょとんとした顔が振り向く。
「…それだケ、なの二
何でまた泣いちゃうかナ」
でもまた、夏目は顔を背けた。
そうしてまた、沈黙が流れる。
でも、今回の沈黙はほんの少し、暖かかった。
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まひる(プロフ) - *ピンク*さん» ありがとうございます、嬉しいです(*´ω`)これからの物語も楽しんでいただけるようなものであれば幸いです〜(人*´∀`) (2019年10月17日 21時) (レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
*ピンク*(プロフ) - いつも楽しく読んでます!!更新頑張ってください!!!!! (2019年10月17日 20時) (レス) id: dc0ff62b63 (このIDを非表示/違反報告)
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