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16 - 3 夢浮橋 ページ25

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「…後悔」





噛み締めるようにそう、Aは繰り返して言う。

夏目は黙ってそれを見据えた。




横に置かれたフラスコから、ぽん、と丸い煙がふわりと空へ消える。


それは、ほんのり甘い香りがした。






「後悔があるから、…繰り返しちゃうんだと思うけど
…例えば、居場所が欲しかったとかね

……最近は、ちょっとわかんない


そういう夏目は無いの?後悔。」





静かな部屋に、その声が響く。


夏目は黙ったまま、目を閉じ、余韻に浸っているかのようにただじっとしている。



対してAも、夏目の答えをじっと待っていた。





多少の沈黙が流れた後、夏目はAを見て、少し視線を下に移す。






「…姉さん二

この際言っておこうと思ったんダ」






噛み合わない答えに、Aは少ししかめっ面。


夏目は立ち上がり、戸棚を開け、水晶を出して床の小さな座布団の上にそっと置く。





「座っテ、姉さん」





促される通りに、Aは夏目の正面に正座をする。


夏目はそれを確認して、水晶に手を翳した。





「水晶?」



「水晶の中をよく見テ」





水晶から目を離さずそう言った夏目に

Aは肩身を狭めて、言われた通りにそれをじっと見る。



2人にしか、それは見えなかった。





「これガ、後悔」



「…、夏目の、?」





黙って笑い、夏目は頷いた。


静かな部屋に、たまにフラスコのぽんという音が思ったより大きく響く。



ほんの少し足を動かす音さえ

息を飲む音さえ、聞こえてしまうだろう。





「ボクは姉さんに甘いからネ

姉さんの望むことなラ、何でも叶えてしまウ」





水晶を抱えてまた立ち上がり、夏目はAに背を向けた。





「…姉さんは優しすぎるかラ、愛する全ての者達の幸せを願ってしまウ


だから姉さんは毎回、”同じ場所にいる”」





戸を開けて水晶を置いてから、ぴたりと手を止めて。

俯き気味で、夏目は言った。





「優しい姉さんは好きだヨ

そんな姉さんだからこソ、非演者であるにも関わらズ、ボクもシナリオに囚われたように毎度同じ罪を犯すんダ」





夏目はひとりぼそぼそと紡いでいく。






「…ボクもそこらの人間ト

何ら変わりないのかもしれないネ」






夏目はそう、また笑う。





そうしてまた拾い上げたフラスコの中に何らかの結晶をいれると

中の美しい青はみるみるうちに鮮やかな緑へと姿を変え



またぽん、と静かな部屋に小さな声をあげた。







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まひる(プロフ) - *ピンク*さん» ありがとうございます、嬉しいです(*´ω`)これからの物語も楽しんでいただけるようなものであれば幸いです〜(人*´∀`) (2019年10月17日 21時) (レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
*ピンク*(プロフ) - いつも楽しく読んでます!!更新頑張ってください!!!!! (2019年10月17日 20時) (レス) id: dc0ff62b63 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まひる | 作者ホームページ:http:  
作成日時:2019年10月13日 15時

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