11 - 3 表情豊か ページ32
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練習が終わってから。
本来は皆で練習して帰るところだったけれど。
流れでAと二人きり。
声が出ないから、A達が繰り返す世界通りの言葉を発せたりはしない。
じわじわと、元の軸からずれていく。
「まだ暑いね、この時期は」
このまとわりつくような暑さを、Aは知っていたろう。
元の時間軸と同じことを、Aは言った。
その言葉に促され、ただ頷く。
Aは前を歩きながら、続ける。
同じ道で、同じ台詞を。
無理矢理元の時間軸に戻そうとしているようにも見えた。
携帯を鳴らすと、目の前のAは歩みを止め、隣に来て、
またゆっくりと歩き出す。
「ん?
何かあった、凛月」
歩きながら、スマホに文字を打っては、消す。
それを、傍から覗くように見るA。
「…、覚えてるよ
崖、だよね
この前会った」
咄嗟に貼り付けられた笑顔には、不安、緊張、負の感情がちらりと覗く。
何となく、そんな風に見える。
「無理?
してないよ、大丈夫
…凛月にとっても、これは賭けなんでしょ
なら、私はそれに乗ることにする
…凛月が行く道なら、大丈夫な気がするから」
不意に感じた、大きな信頼。
これから傷付けちゃうかもしれないのに。
昼間の世界に出てきて知った、胸の痛み。
夜の世界で感じた、不思議な感情の正体。
夜から出てきたからこそ知った、人に対する感情。
人としての、振る舞い。
燃えるような陽の下で、盛る炎は絶えることを知らない。
『そっか』と笑って見せると、Aも笑った。
色んな書類が入った鞄を両手で抱えて。
日が暮れそうな夕焼け空を前に
くすくすと、笑い声は溶けていく。
今心にあるのは、罪悪感が半分。
緊張感、高揚感、あとはよくわからない感情が、それぞれ1/6くらい。
明日と迫った約束の日を前に
何となく、Aの手を取った。
「最近甘えん坊だね
Knightsの中じゃ、いつもだけど」
笑ったAの手は温かい。
すべすべしてて、気持ちいい。
ちゃんと血は通ってる、大丈夫、ちゃんと生きてる。
「凛月?
そんなに触ったらくすぐったい、」
頬を染めたAに、俺は笑うだけ。
普段はあまり使わない表情筋が、最近酷使され過ぎているような気がする。
そんな表情筋を軽く伸ばして
徐々に暗くなる空に
俺もまた、少しずつ夜を感じた。
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まひる(プロフ) - 雪羅さん» ありがとうございます…!!妄想のままに描いているので賛否両論あると思いますが…(^-^; そういっていただけると嬉しいですー!(*´ω`)ありがとうございます(*’ー’*)ノ (2019年10月13日 11時) (レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
雪羅(プロフ) - 前からこの作品見続けています!繊細で綺麗な表現とか、儚い世界観とか、謎の多いキャラクターとか、すごく作り込まれていてまるでドラマを見ているようでした!これからも頑張ってください! (2019年10月13日 9時) (レス) id: 227c03626a (このIDを非表示/違反報告)
まひる(プロフ) - ありまさん» ありがとうございます…!そういったコメント頂けると、嬉しいです(*^-^*) (2019年10月9日 22時) (レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
ありま(プロフ) - この作品の雰囲気がとても好きです。 (2019年10月9日 21時) (レス) id: ef20a5c3d2 (このIDを非表示/違反報告)
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