72話 咲の言うわがまま ページ24
「私の言っている我ままってね、人の気持ちばかり優先させないで自分を素直にするってこと」
「咲さん、難しい……」
「判りやすく言えば……痛いときは痛い。寂しいときはそばにいて欲しい、つらいよって弱音を吐くことよ」
雅紀の瞬きが止まった。
「前にも言ってたね……」
「うん、私も病弱だから旦那様によく言われるの。だから人のことは言えない」
やわらかい笑顔に戻った。
ふと雅紀は聞いてみたいと思った。
ずっと自分に自問自答していることを。
咲なら答えてくれるような気がした。
「咲さん……」
いつもにない雅紀の真剣な表情。
「どうしたの？」
「もし……もしもの話だよ……」
きゅっと胸の服を握る。
「もう少しで死ぬって……判ったら何をしたいと思う？何をしなきゃって思う？」
咲は雅紀の顔を覗き込む。
「雅紀君は何がしたいと思うの？」
「俺？俺は……思い出が欲しいと思う……」
「そう……」
「色々な思い出を作りたいって思う……」
「私はね……思い出じゃなく未来を作りたいって思うな」
未来？無縁な言葉。
「私がいなくなった後の未来を作りたいって思うの。私の分も続いていく時間を」
「難しくて判らないよ？」
「雅紀君が言っていることは死ぬために生きるっていうことで、私の言っていることは未来のために生きるってこと」
咲の目には強い光があった。
「雅紀君は私に似ているからそのことがわかる日が来るよ。きっと……苦しくて、怖くて耐えられなくなるね。でも……大丈夫」
雅紀にはみんながいるからと咲は頷いた。
「咲さん？」
「うん大丈夫、大丈夫」
あまり優しく笑うのでそれ以上は聞けなかった。
「そうそう、今日ね水羊羹を作ってきたの」
「食べたい」
「一口食べたら寿命が一日延びるよ」
「それって……延命の水？」
「正解、その水を使って作ったの」
ドアがノックされる。
顔を出したのは潤でお盆には水羊羹。
「噂をすると出てくるものね」
「だね」
無邪気に笑う二人。
この時間がもう二度と訪れることがないことをこの時の雅紀は知るはずもなかった。
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むつき(プロフ) - みるくプリンさん» あたたかいコメントに私のほうが泣いちゃいます。兄さんたち6人も大好きな人たちです。これからも頑張ります！ (2022年6月8日 7時) (
レス) id: 7a3d8c34a7 (このIDを非表示/違反報告)
みるくプリン(プロフ) - 初めまして！勝利６人組が好きなんですが、たまたまこの作品に出会いました。感動して泣きました、是非ドラマ化して欲しい(^.^)素敵な作品をありがとう。これからも頑張ってくださいね。 (2022年6月7日 18時) (レス) @page41 id: e740d416ca (このIDを非表示/違反報告)
むつき(プロフ) - ちぇろさん» ありがとうございます。温かい言葉にやさぐれていた心が穏やかになりました。こちらこそ感謝です！ (2021年9月16日 20時) (レス) id: 7a3d8c34a7 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇろ(プロフ) - 久しぶりに読み返させていただきました。ちょっぴり凹んでいた心がほこほことあったかくなりました。ありがとうございます。大好きなお話です。またおじゃまします。 (2021年9月14日 22時) (レス) id: 84d56b057b (このIDを非表示/違反報告)
むつき(プロフ) - めいさん» 二回もたどり着いて頂いて嬉しいです！ありがとう！ (2015年12月2日 18時) (レス) id: 4345b608cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：むつき
| 作成日時：2012年8月2日 21時
