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三之助「ゆっくり下がろう。絶対に背を向けるな。追いかけられるから」
その言葉に、私は手をついたまま後退る。心臓の音と落ち葉の音がやけに耳をつく。足に力を込めると、激痛が走った。
『いっ……!』
その痛みに思わずうずくまる。急なその動きが、三人の血の匂いに敏感になった熊を驚かせるには十分だった。
熊は巨大な身を持ち上げる。その涎を垂らす口元、長く鋭い爪に、私たちは身をすくめた。
左門「A、走れるか」
『無理です』
三之助「俺が注意を引くよ。この中で足は一番速いし、少し刺激すればこっちに向くはず」
そういいながら苦無を取り出す。
『無茶に決まってるじゃん! 私が一番血を流しているし、動けないんだから、ここに置いて行って』
私は必死に訴えた。死ぬのは本当に嫌だが、左門と三之助のお荷物になるのはもっと嫌だ。恐怖で手は震えていたけれど、私はとにかく立ち上がろうとした。
ブォー、と猛々しく吠える熊。もうだめだ、そう思った瞬間、私たちの上を紺色が舞った。
「よく耐えた。えらいぞ」
落ち着いた声がした。
私たちの前に降り立った人が、焙烙火矢のようなものを熊に投げる。次の瞬間、緑色の粉煙が熊を襲った。
嫌そうに顔を背け、脱兎のごとく逃げ出した熊。あっという間のできごとだった。
左門「せ、先輩、どうしてここに?」
そう、私たちの前に現れたのは、五年ろ組の竹谷八左ヱ門先輩だった。
八左ヱ門「どうしてって、作兵衛とはぐれたって聞いたから探しに来たんだ」
熊を追い払った竹谷先輩が、口元の布を下げて言う。流石生物委員会の委員長代理。獣のことは知り尽くしているようだ。
三之助「作兵衛、って」
作兵衛「お前らぁ〜!!」
突然後ろから抱きすくめられる。力の強さと声からして作兵衛なのだが、顔が全く見えない。
作兵衛「何で俺から離れて死にかけてるんだよ!! しかもAまで!」
左門「作兵衛、泣くな泣くな」
三之助「わ、すっげぇ顔」
どんな顔か見てみたいんだけど。作兵衛が本当に放してくれない。よっぽど心配したみたいだ。
八左ヱ門「あんなに大きい熊は一撃でお前たちを倒せる。攻撃して刺激したらあっという間にみんな死んでたぞ」
苦無を持った三之助に竹谷先輩は言う。そして、と私にも向き直った。
八左ヱ門「Aがいなかったらこの迷子二人は忍術学園に戻れない。置いて行くという選択が、一番の愚策だ」
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おんぷ - 続き見たいです (2月4日 20時) (レス) id: e0221025e3 (このIDを非表示/違反報告)
砂糖水 - 黒糖さまでーすさん» 同じく (2023年4月1日 2時) (レス) id: 1d36f8c737 (このIDを非表示/違反報告)
砂糖水 - 終わってるんですか、残念です (2023年4月1日 2時) (レス) @page21 id: 1d36f8c737 (このIDを非表示/違反報告)
黒糖さまでーす - なんで終わってるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ((((泣 (2023年3月14日 22時) (レス) @page21 id: b07dd8e215 (このIDを非表示/違反報告)
黒糖さんでーす - 更新頑張って下さい。続きが気になります (2023年3月2日 18時) (レス) @page21 id: b07dd8e215 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まみむー | 作成日時:2022年8月7日 22時