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「もう、お兄様の記憶をコピーすることは出来ません。いえ、元々出来なかったんです。旧体は、機密保持によってメモリーのコピーやバックアップは禁じられておりましたので。お兄様は恐らく、わたしに貴女の正体を知らせ、そして貴女にヒントを教えたかったのだと思います」
「……そう。それで"彼"はわたしに何を伝えようとしていたの?」
「メモリーの中の是之助社長の言葉です。"いずれ、私の孫と君の妹"。これは或人社長と私のことです。そして彼はもう一人、最後に付け加えました。"私の過ちが生み出してしまった"彼の娘"と」
「つまり、是之助社長の過ちによりある男が生み出してしまった娘……。わたしってこと……?」
「はい。男性は物理的に生命を生み出すことが出来ません。しかし、その男性が一人で娘を生み出した。そしてその娘が稲荷さん、貴女のなのだとしたら。貴女は……」
「……えぇ、そうよ。わたしは普通の人間ではない。でも、ヒューマギアでも無いわ」
「このことを或人社長に私から伝えることは致しません。しかし、或人社長から直接的な質問で答えるよう言われれば、私はこのことをお話致します」
「それでいいわ。社長に勘づかれるようなヘマはしないから。いずれ誰かにバレるのは想定内。でも良かったわ、バレたのが口の硬いヒューマギアで」
「それでは、行ってまいります」
「ええ。早く行ってやんなさい。あぁそうだ、イズ」
「何でしょう」
プログライズキーを取ったイズがわたしに背を向け、部屋を出ようとしたところを止める。ほんと、今日のわたしはどうかしている……。
「……気をつけて」
こんなことを言ってしまうなんて。
「かしこまりました」
イズはわたしに頭を下げ、またいつもの姿勢に戻る。そしてその姿勢のまま人間では到底出せないような速度で走り出し。わたしはその背中を見送った。
「それにしても、社長の過ちねぇ……」
イズの言葉が本当なら憶測どおり。先代社長と雷門にはなんらかの接点があったということだ。そして、もう一つ分かったことがある。先代社長がわざわざワズの記憶を使ってわたしにそのことを伝えさせたということは。
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Shirome - あなたの書いた福添さんが見たいです! (2022年8月2日 4時) (レス) @page36 id: 57feb98294 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2019年11月10日 5時