西木野真姫独白 ページ8
「これで、どうかな?」
「どうも何も、これじゃあうるさすぎよ。ファンが引いちゃうじゃない」
after school NAVIGATORSのデモテープが出来たと言ってAが家にやってきたのは、正午を少し回った頃だった。この暑さだというのに、自転車を飛ばしてきたらしい。筋金入りの馬鹿だ。暑さで虫の居所が悪かったわたしは、彼女が持ってきた曲を、一刀両断してしまった。言葉の内容は間違っていないのだけど、選ぶ言葉を間違えたのだ。こうなってしまってはもう遅い。いつものパターンである。
「これ位やらないと、インパクトが無いと思うんだけどね」
彼女は機嫌を損ねてしまったようだ。彼女は、わたしのことをあまり好いているようでは無かった。わたしのことを、恋敵として見ているからだ。確かに、他のメンバー同様、愛情を持って接してくれてるのだろうけど、きっと、わたしのことを可愛い奴だとは思っていない。別に、悔しくなんてないけど。それ故か、彼女はわたしに感情をそのままぶつけてくれた。にこちゃんに接するときのように気取ったりなんかしない。これだけは、わたしにだけの特別だ。勿論本人は、特別だなんて思っていないのだろうけど……。
しかし、とんだ勘違いをされたものである。確かにわたしはにこちゃんの事が好きだ。しかし、それと同時にAのことも愛していた。最低な女だと思われるだろうけれど、二人さえ良ければ、わたしは三人で幸せになりたいと思っている。蓋を開けてみれば、恋敵だけれど。
さて、目の前の彼女をどうしようか。機嫌を取りたいものだが、それでは彼女の持ってきたデモを認める他ない。それはそれで、わたしの作曲者としてのプライドが許さなかった。
「とにかく、これはやり直してきてくれる?」
「これを抑えると、ハードロックじゃなくてただのロックになってしまうよ」
彼女も彼女で、引く気は無いらしい。なんて我儘だろう。が、仕方あるまい。わたしは一つ、溜息をついた。
「貴女の才能は認めてるわ。ねぇ、貴女なら出来るでしょ?にこりんぱなにお似合いのハードロック」
彼女の瞳が、わたしを見つめる。
十数秒悩む素振りを見せたあと、彼女は少しだけはにかんで「分かった」と承諾してくれた。これで、なんとかなりそうだ。彼女を玄関まで見送った後、わたしは二階に駆け上り、帰路に着く彼女の姿を追う。
「貴女の扱いも、結構大変ね」
王子様みたいな彼女に、ボロのママチャリは似合わないわ。
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作者名:うれい | 作成日時:2016年8月29日 13時