絢瀬絵里独白 ページ7
わたしは、ニヤニヤと携帯電話を見つめるAの頭に、バサリと片手に持っていた教科書やノートを置いた。我に返ったらしい彼女は、わたしに振り向く。
「もう、だらしないわよ」
そう注意すれば、彼女は「ごめんごめん、この間撮ったにこが可愛すぎてね」とわたしに見せつけてくる。知っていた。彼女が何を見ていたかくらい。何を見ている時に、あんな幸せそうな顔をするかくらい。画面に映る、不機嫌そうなにこの写真を見て、わたしはとても羨ましく思った。きっと、μ'sの他のメンバーも、皆そう思うだろう。そして、それを素直に表し、アピールするんだろう。
わたしは、出来なかった。一番年上で、皆から頼りにされる存在でなければならないわたしが、どうして我先にと彼女にアピールできるだろうか。
「にこってば、本当に愛されてるのね。流石にこね」
「そりゃあ、当たり前だよ。宇宙No.1アイドルにこにーだもん」
ほんの少しの皮肉のつもりだった。一切こちらを向いてくれないAへの。それがなんの意味も成さないことは知っていたけれど、露骨にアピールするよりはマシだと思ったのだ。わたしも、穂乃果や凛みたいに「にこじゃなくてわたしを見て」と伝えてみたいものである。きっと、貴女は困ってしまうのだろうけれど。
わたしは、なんでもない風を装って、本を読み始めた。本当は話しかけたいけれど、駄目。思いが募ってしまうから。本をパラリとめくる。栞が鞄に落ちてしまっていたので、どこまで読んだかわからなくなってしまっていた。
――パシャ
思わず、顔を上げて音の主を探してしまう。彼女は、わたしの斜め前で、携帯電話を構えていた。先程の音は、普通はカメラ機能だと思うけれど。やはりそうなのだろうか。彼女は、ニヘラッとだらしなく笑って口を開いた。
「ねぇ見て、すっごく上手く撮れたよ、絵里ちゃん」
そう言ってまた彼女は、わたしに画面を見せる。そこには、本を読むわたしの姿があった。「絵里ちゃんはこういう姿がすっごく似合うよね」なんて宣う彼女の言葉は、わたしの耳を右から左へと華麗に通り抜けてしまう。
――今の写真は、わたしよね。認識した途端、顔がカァッと熱を持った。撮られたことに、ではない。もしかして、先ほどの嫉妬が彼女に伝わってしまったのではという、羞恥心だ。やっぱりにこの時とは違うけれど、わたしの写真を楽しそうに見つめる彼女は、とても楽しそうで。
「貴女はずるいわよ」
そう呟いてしまった。
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作者名:うれい | 作成日時:2016年8月29日 13時