東條希独白 ページ4
「Aちゃん、鍋出来たで〜」
ウチの声で、彼女は上体を起こす。真姫ちゃんから貰った楽譜を見ていたらしい。真姫ちゃんと彼女は、楽譜に書かれているような音楽記号で繋がっているようでとても羨ましい。少し真姫ちゃんに嫉妬したウチは、楽譜を取り上げて、棚の上に置いた。今だけは、ウチとAちゃんだけの二人きりの空間だということを分かって欲しいんよ。彼女は渋々卓袱台に向って正座し、お玉を取る。
「やれやれ、仕方ないなぁ、のんたんは。作ってくれたんだから僕がよそうくらいしなくちゃね」
「ふふ、お玉持って気取ってるん?かっこわるー」
頬を膨らませた彼女は、むくれながらもちゃんとウチのお皿に具をよそってくれた。あ、お肉ばっかりよそってくれちゃって。ウチを太らすつもりかな?確かにウチはお肉大好きやけど、複雑な乙女心を分かってないなぁ。ええもんええもん、"いいこと"思いついたから
「それじゃあ、いただきます。楽しみだなぁ、のんたんの鍋」
「いただきます。ウチも楽しみやで、Aちゃんが切ってくれた野菜。めっちゃゴロゴロしてるやん?」
「下手で悪かったね」
「ええんよ、こういうのも新鮮やん?……ウチとAちゃん、新婚さんみたいやし」
「あはは、そうだね」
む、思い描いてた反応と違う。なんでもないように笑っちゃって。これがウチやなくてにこっちだったら、Aちゃんは顔を真っ赤にして嬉しがるんやろなぁ。なんだか負けた気分や。ウチは、さっき思いついた"いいこと"を実行するために、箸でお肉を掴んだ。そして、それをAちゃんの口元に持って行く。
「あーん」
彼女は目をぱちくりと瞬かせてウチを見つめている。
「え、ちょ、のんたん?」
「うちこんなにお肉食べれんもん。ほら、食べて」
「 …………わ、わかった」
釈然としない表情で、Aちゃんはおずおず口を開き、ウチのお箸からお肉を頬張る。「おい、しいよ」とぎこちなく言う彼女に、思わず笑みが溢れた。ほんまにかわええなぁ。このままずっと、この時間が終わらなければいいのに。
「これで、間接キスやね」
Aちゃんは、ようやくウチが望んでたように顔を真赤にした。「顔真っ赤やで」と言うと、目をそらす。
端から見たらラブラブに見えるかもなぁ、と思うと嬉しくなって、ウチまで俯いてしまった。
「のんたんこそ、顔真っ赤だよ」
ウチと彼女は、顔を突き合わせて笑い合う。なぁ、こんなんで付き合ってないって言える?
2人がお気に入り
「アニメ」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うれい | 作成日時:2016年8月29日 13時