第32話 ページ33
「はぁ、凄く楽しかった!」
頬を赤らめて大満足な様子のAは、後ろを歩くリヴァイを見た。
「あ、あの。本当に大丈夫でしたか?なんだか私ばっかり楽しんだみたいで」
「いや。俺も楽しかった。思いのほか陶芸ってのも悪くねえ」
「でも兵長、潔癖症だと聞いてますけど、手が土で汚れたの、嫌じゃありませんでしたか?」
「こういうのと、汚ねえもんは違うだろう」
安心したように笑ったAは、「3日後には焼きあがるっていってましたね」と機嫌よさげに言った。
リヴァイがAを好きになったきっかけは、彼女が巨人の訓練用標的を作っていた時の横顔だった。
何かを夢中で作っている顔が見たかったので、それを間近で見ることができて十分満足だ。
「おい、飯にいくぞ」
この状態の人間が誘いに乗らないことなどない、ということはよくわかっている。
そのセオリー通りにAはあんなに渋ったリヴァイとの食事に応じた。
「今日はありがとうございました」
兵舎の門前で深々とお辞儀をしたA。
部屋まで送るつもりだったリヴァイだが、それを拒否される。
何度も送るというと、何度も丁重に断られた末に言われた。
「他の先輩方に見られたら、睨まれるんです!」
「はぁ?」
「兵長は人気があるんです!ご自身でも理解されてます、よね?」
そこは黙って肯定する。
「なので私みたいな新兵が兵長と出かけたなんて知られたら何を言われるか」
「お前、周りの事は気にしねぇと言ってたろ」
「あえて嫌われに行くのは違うと思います。と、とにかく!今日焼いてもらった物は取りに行って、お届けしますから!その位はお任せください!」
笑ってそういうとまたお辞儀をして兵舎に入っていった。
自室に戻ったリヴァイは自分がかなり上機嫌であることに気づいた。
店主が驚くほどの大きな皿を作っていた必死な姿は、思い出すとにやけそうになる。
食事をしていてもずっと陶器の話や技術系の話をしていた。
自分の顔色をうかがって無理矢理話を合わせてくる連中よりもずっといい。
一緒にいて心地よかった。
(だがこの先は長そうだな)
深くため息をついてシャワールームに入った。
幸い陶芸はリヴァイとしても楽しいものだった。
そこにAもいるのなら、本格的な趣味にしてもいい。
相手に合わせて自分の趣味や時間を作るなんて初めての経験だった。
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作者名:ララ | 作成日時:2020年12月26日 2時