第一幕、第一場 ページ2
ウィーンのある住宅 壁から屋根まで新しく、やや控えめな庭に屋根裏付きの家。寒山枯木の夏。
運送員が家の中と外を行ったり来たりしたのち、汗を拭いて段差に腰掛ける。直後に家から出てきたノイマンが水の入ったコップを渡す。運送員は飲み干して、話しかける。
運送員 いや、助かりました。この水がなけりゃ、干からびていましたよ。しかし、この寒い夏にこれだけ汗を流すとは……
ノイマン 欲張って、私の趣味のものをあらかた持ってきてしまったもので、申し訳ない
運送員 いやいや結構。でも、お代は大丈夫なんで?
ノイマン ご心配なく。(やや笑って)お金には余裕があるのです。趣味に溺れてもなお……おっと、(頭を掻く)失礼、意地の悪い言い方をしてしまいました
運送員 同じドイツ人、遠慮はいりませんよ。ところで、なぜウィーンに?
ノイマン やや話は長くなりますが……ウィーンはただ芸術の街ではなく、大ドイツの中心のようでありました。今でこそ、併合で、ベルリンの下のように見えていますが、ベルリンとは比較にもなりません。(少し沈黙して)いや、ベルリンもいいところですがね。しかし、ウィーンといえばイタリア人にとってのローマ、ソ連人にとってのモスクワ、いわば我々の精神の支えのようなもの、そこに住むのは夢でした。今、ドイツ人に厳しい独裁者が消え、ドイツ人を愛する(ため息をつく)それも過剰なまでに−−−−どちらもオーストリア人ですが、そのおかげで行きやすくなったもので、ここぞと。
運送員 それはまたすごい理由で。でも気をつけてください、睨まれますよ、ナチさんに。(立ち上がって)ではこれで
運送員退場。ほぼ入れ違いに、ツヴァイフェルがやってくる。
ツヴァイフェル やあノイマンさん。私はツヴァイフェルと言うもの、ちょっと協力していただきたいことがある。
ノイマン なぜ私の名字を? まだ表札もないというのに
ツヴァイフェル (憤ったように)あなたに質問は求めていない。望むのは、ドイツ人としての義務を果たしていただくことのみだ。
ノイマン では、一体どういったことがあったのでしょうか。私に協力できるかわかりませんが
ツヴァイフェル ユダヤ人のシュタールという富豪がいる。奴めはナチス党幹部の方々に金をやって、機嫌を取り、姑息な保身に勤めておったが、それが無駄と見るや、鼠のようにベルリンからこちらへ逃げ去ったのだ。だから、見つけたら教えてほしい
ノイマン わかりました(若干投げやりに)
一同退場
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断章(プロフ) - Sike!さん» ご高覧ありがとうございます。このサイトには戦争物が少なく、需要があるかどうか不安でしたが、そのような感想をいただけて、安心いたしました。重ねて御礼申し上げます。 (2020年3月27日 20時) (レス) id: e3fb801185 (このIDを非表示/違反報告)
Sike!(プロフ) - コメント失礼します。戦争を題材にした小説は大好きなんです……まさかこのサイトで出会えるとは思ってもみませんでした。登場人物のキャラクターが際立っていて、セリフの苦手な私には羨ましい限りです。お話の続きを楽しみにしております。 (2020年3月27日 6時) (レス) id: b8651e6ca0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:断章 | 作成日時:2020年3月27日 0時