君の消えた世界

この鼓動にサヨナラを/中島敦 ページ14

ザァァア……波の音が聞こえる

潮風が私の髪を揺らした……自分の鼓動が聞こえる
この世で一番醜い音だった


アンタはそんな私を…救ってくれたね


"如何して？…君が生きてる証拠じゃないか"


だからこそ嫌いだったのに…ふわっと笑うあんたの顔見たら、自分が馬鹿らしくなった

アンタの為に生きたかった…アンタを守る為に


でもやっぱ無理だわ……コレが私だから


胸に手を当ててみる…私の心臓はまだ脈打っている


「やっぱり……嫌いだなぁ」


アンタを傷付ける事を考えた血なんて…直ぐ私の大切な人を傷付ける異能なんて
……アンタを泣かせた私なんて



如何あっても


好きになんてなれないよ





治が知ったら、"私も誘ってくれれば良かったのに"とか言うかもね


崖に一歩踏み出した…これで


「Aッ！！！」


愛しい声が私を呼んだ


「待って‼」


私は反射的に振り向いた……嗚呼、アンタは馬鹿だ


「…やっと……ッ見つけた…駄目だよ、こんな事
君が死ぬ必要なんてないんだ‼」


本当にお人好し…そんな傷でこんな所来て
来させるなって言ったのに……国木田の奴、後で祟ってやるんだから


「もっと強くなるから…君を守れる位、止められる位強くなるッ…だから！」


私は地面を蹴った…目を見開いたアンタが手を伸ばす


「A‼僕は君が……ッ」


「…御免ね＿＿＿＿＿＿＿サヨナラだよ！」


崖の下を覗くアンタが見えた…きっと私は笑ってる




最ッ低の女だね







サヨナラ









サヨナラ…敦

大切な人/谷崎潤一郎、ナオミ→←久しく苦かった/広津柳浪

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