【銀魂】沖田隊長、初めてのデートです【沖田総悟】

極端に足りない　沖田side ページ40

沖田side


雑貨屋の扉を押し開けると、扉についていたベルが大きすぎず小さすぎない音で鳴った。その音を合図とするように店員のいらっしゃいませの言葉が聞こえて、鼻で空気を吸い込めば甘ったるいにおいがした。いかにも女が好きそうなにおいだったが、俺から言わせてもらえば少しばかりキツいだろうか。店内を見てみればどうやらそれはアロマなんたらとかいうものから発されているものらしい。香水だとか、そういったもののにおいはなんだか苦手だった。ずっと嗅ぎ続けていると頭が痛くなるような気がする。Aは香水なんてつけていたことはない。けれど多分Aがもし香水の類いををつけたとしても、今みたいに一瞬眉を寄せることはないのだろう、とも思う。

…Aからちょっとキツいにおいがしたとしたら、それはそれでもえる。こんなことを言っては変態のようだし引かれることが目に見えているので言葉にはせずに内心で止めたけれど。

Aは興味があるように店内を見回しており、俺は一度Aの手のひらを離しては言う。


「ほら、見て来いよ」

「じゃ、ちょっと見てきますね」


小さく笑みを浮かべながらAはそう言って、俺から離れていく。先程趣旨を確認した通り、今回のデートはAへのお返しをするためのものである。Aが気に入ったものをプレゼントしてやろう、ということでこの店に訪れたわけだ。さっきから江戸中に並んでいる店を回っているのだが、一向にAのお気に召すものはないらしく、この店で五件目であった。俺が傍で見ていては選びづらいだろうということで、距離を置くことにしているのだが。それにしても。


…Aには物欲がない。

思い返してみれば、Aが出掛けていってたまに買ってくるものといえば本がほとんどで、女が好むもの。例えば服だとか、そういったものを買ってきた記憶がない。本人にもその自覚はあるらしい。俺への遠慮も加わって、プレゼントを中々決められずにいるようだ。遠慮はするなと釘を刺してはいるものの、恐らくAのことだから、遠慮が消えてなくなることはないだろう。図々しさが極端に足りないのだ、アイツには。


…視線をAに向ける。Aは何やら、丸っこいフォルムのクッションを手に持っているようだ。目をキラキラとさせながらにそれをもふもふとしている。その光景はなんとも……言葉に形容しがたいが、分りやすく一言で言うのなら可愛かった。


けれど、結局はそれを棚に戻してしまうのだ。

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