どーしても ページ24
…沖田隊長の名前を呼んだ時のことを思い出す。まるで猫が甘えるときのような声で自身の名前を呼んでくれとおねだりしてきて、私はそれに堪えきれなくてその名前を口にしたのだ。そうして沖田隊長が見せた嬉しそうな表情も、よく覚えている。沖田隊長の下の名前は『総悟』であった。沖田隊長でいつも呼んでいるから、今になって違う呼び方をすることには、抵抗とまでは言わないけれど照れ臭さがあった。慣れてることとは違うことをするのは、なんだって緊張を伴うものだ。沖田隊長の名前を声には出さずに、内心で呟く。『総悟』。やはり恥ずかしい。口をつぐむ。
沖田隊長は「さぁ早く」と言わんばかりの期待に満ちた目で私を見据えていて、私は困った風に彼のその目を見つめ返した。
「…だ、だって、おき……」
「そ、う、ご」
「え、ぇぇぇえ…!」
自身の名前を一文字一文字区切るようにして言う沖田隊長は、どうやら私を止めに逃がしてはくれないようだ。私が彼の名前を呼ばない限り、こうしてずっと正面から見つめられることになる。それはなんとも恥ずかしい。その赤い目に、忙しなく目線を泳がせる私が映っている。何処に視線をやっても、この状況を打破できるものなんて置いてはいないのに。
「…で、でも…」
「言い訳なんざさせねェぜィ?今日は非番で、上司と部下なんつー邪魔くせーもんはねーんだから、」
呼ばない理由なんてねェだろィ、と。沖田隊長は言う。その言葉に何も言い返すことが出来なくて、うっ、と声を詰まらせては顔をうつむかせる。彼の言う通り、今は仕事中でもなければ上司も部下も関係ない、恋人としてデート中なわけで。その言い分は正論と言えば正論であった。私が彼の名前を呼ぶことを躊躇う理由は、ただただ恥ずかしいというだけなのだから、反論できるはずもない。
顔をうつむかせたまま、彼の顔色を窺うように視線を持ち上げながら、私は小さく口にする。
「…どうしても、ですか…?」
「どーしても」
…沖田隊長は意見を曲げない。分かっていたことだった。私達の間に、少しの沈黙が降りてくる。お店のBGMは緩やかな曲線を描くような、そんな優しげな曲を流し続けていて、気休めに、一種の現実逃避に走るようにその音に耳を澄ませながら、私は一度深呼吸をして、そうして呟く。緊張のせいで少しだけ、掠れた声で。
「…総悟……さん…?」
…以前彼の名前を呼んだときも、『総悟さん』と呼んだ。自分のお冷やのグラスを見据えながらにそう言って、恐る恐る視線を彼に向ける。
すると。
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☁️🫧 - 見ているとき、めちゃめちゃニヤニヤしてました。沖田くん最高すぎる。喋り方難しいのにちゃんとおかしくないように書いていてすごいですすごいです!尊敬します✨ (6月14日 21時) (レス) @page15 id: bf1038f04d (このIDを非表示/違反報告)
白桃餅子 - 朝から読みふけりました(笑)やはり主様は最高です! これからも頑張ってください! (2018年5月1日 7時) (レス) id: c96dee9e6b (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - しおからさん» お忙しい中来てくれてありがとうございます!!来られなくなっちゃうんですか…寂しいですが、またしおからさんに会えるようにこれからも頑張っていこうと思います!迷惑だなんてとんでもないです!!また話しかけてくださいね^^ (2018年4月30日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 白桃餅子さん» ありがとうございます^^ 体力がなくなる…!!それは大変だ…!!読んでゆっくり休んでくださいね(笑 (2018年4月30日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
しおから - ごめんなさい!ぜんぜん来られず…見たい気持ちもいっぱいなんですが、実は、かなりの間来れなくなりそうです…皆様のコメント欄で、私情ですいません。ピピコさん、またきっと来ます! 迷惑かもしれませんが、きっとまた来るので!更新頑張って下さい!失礼しました!! (2018年4月28日 23時) (レス) id: 1423f5ea5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年4月5日 18時